正々堂々と会社を辞めるための「退職ルール」 焦って「退職代行」を利用する前に押さえたい

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2. 契約期間の定めがある方はご注意

パートやアルバイトなど雇用契約期間に定めがある方は、注意が必要です。雇用契約期間が定められている場合は、会社と労働者がその期間はお互いに合意した労働条件で働く、働かせることを約束しているので、「やむを得ない事由」がなければ原則、雇用契約期間の途中で退職することはできない取り扱いになっています(民法628条)。つまり、雇用契約期間の定めがない正社員より厳しいルールになっているのです。

めったなことでなければ辞めても賠償請求はない

ちなみに、「やむを得ない」の程度は明確にされていませんが、育児や介護といった家庭の事情や長時間残業やハラスメントなどの理由はもちろんのこと、ある程度緩やかに判断されます。なお、やむを得ない事由もなく、会社が合意してくれない場合に退職すると損害賠償を請求される可能性はありますが、これは稀なケースで、例えば重要なプロジェクトの主要なメンバーになっている等に限られます。

ただし、労基法137条では、「契約期間の定めがある場合でも契約期間の初日から1年経てば、労働者は自分の意思で自由に退職することができる」と定めているため、雇用契約期間の定めがある場合でも1年過ぎれば、自由に退職できることになります。

3. 「退職願」と「退職届」は意味合いが異なる

労働者が退職の意思表示をする際の書式として、一般的には「退職願」と「退職届」があります。漢字が1文字違うだけですが、その意味合いは異なると考えられています。

「退職願」は、あくまでも労働者が退職を希望する旨を願い出る書類になるので、会社の人事権がある方(部長など)の承認があってはじめて退職ということになります。つまり、合意解約の申し入れの書類になります。そのため、「退職願」を提出した後も、会社が承認するまでの間は原則として撤回できることになります。

一方、「退職届」は、労働者からの一方的な退職の申し入れの書類になるので、会社の承認を必要としません。つまり、退職届を人事権のある方に提出した段階で効力が生じることになります。そのため、提出後は原則撤回もできないということです。したがって、退職願を出してもなかなか辞めさせてくれないといった場合は、書式を退職届に替え、退職の意思が固いことを伝えることも一つの手です。

4. 承認なしの退職は損害賠償を請求される?

いわゆるブラック企業といわれる会社では、就業規則や雇用契約書で、「会社の承認を受けずに退職した場合は損害賠償を請求する」といった定めがされているケースもあるようですが、前述のとおり、雇用契約期間の途中でプロジェクトの主要なメンバーだったようなケースでなければ、損害賠償請求が有効になることはありません。

そもそも、憲法では、職業選択の自由が保障されており、労基法16条でも労働者が退職するにあたって、違約金や損害賠償を請求することを契約とするのを禁止しています。そのため、そのような規定が雇用契約書や就業規則にあっても、無効なわけです。

5. 「退職代行」を考える

法律をきちんと理解していれば退職はできます。また、損害賠償請求が有効になるようなケースはほとんどありません。

そこで考えてみたいのが「退職代行」です。退職代行は、本人が会社と直接やり取りせず、また会社に行かなくても退職できる便利なサービスです。ただ一方で、会社と直接話さずに辞めるだけに円満退職とはなりにくいですし、当然コストが掛かります。退職代行を利用するメリット・デメリットをしっかり押さえて、慎重に判断すべきです。また、利用する場合でも、業者によってもいろいろ取り扱いが異なるので、きちんと調べておくことが重要です。

いずれにしても、「立つ鳥跡を濁さず」。法律をきちんと理解し、周りのメンバーに迷惑がかからないように退職するよう努めましょう。

武澤 健太郎 大槻経営労務管理事務所社員役員、特定社会保険労務士

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たけざわ けんたろう

社会保険労務士法人 大槻経営労務管理事務所 労務コンサルティング事業部執行役員(銀座第3室室長兼務)。2011年9月に経営労務監査プロジェクトのプロジェクトリーダーとして、数多くの労務監査を手掛ける。2012年5月に特定社会保険労務士を付記するとともに、多数のクライアントより個別労使紛争を含む労務相談を受ける。そして、2013年9月には、海外進出プロジェクト担当リーダーに就任し、アジアを中心とした海外進出に必要な労務管理、労働社会保険のアドバイスを積極的に行っている。
 

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