被災者を追い立てる震災復興事業の不条理 石巻、女川で進む区画整理、道路建設の実態

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遠藤和宏さん

図らずも、東日本大震災の被災地で進む復興事業が、津波から生き延びた住民の生活を脅かす存在になっている。

高さ十数メートルの大津波に飲み込まれた宮城県女川町。中心市街地から2キロメートルほど離れた山すそから海辺へと広がる傾斜地に、ポツンポツンと住宅が残っている。震災前には約150戸ほどあった集落の住宅のうち9割が津波で流されてしまい、残ったのはわずかに16戸。ところが、市街地全体をかさ上げする土地区画整理事業が、運良くも家屋が残った住民に立ち退きを迫っている。

住民の間には「家を失った人を呼び戻すためにも事業への協力はやむをえない」(50代女性)という声が少なからずある。その一方で、貯金を取り崩して津波被害を受けた自宅をリフォームしたばかりの住民から「納得できない」という声が上がっている。

今後、数十年から百数十年に一度の頻度で押し寄せるとされる津波から住宅を守ることを理由に、海岸に防潮堤を築くとともに、集落全体を対象に高さ10メートルもの土を盛ってかさ上げする。その際に、津波の被害がなかった家屋もインフラ整備を理由に解体・撤去を迫られることから、「計画自体がおかしい」と疑問を抱く住民もいる。

津波被害がない住宅も撤去

「介護が必要な年寄りを抱えてどこへ行けというのか」

集落内に残った住宅で暮す遠藤和宏さん(76)は割り切れない気持ちを抱く。

100歳になる母親、76歳の妻とともに3人で生活する遠藤さんは、「不意討ちに遭ったようなものだ」と憤りを隠さない。「町役場には3回も出向いて、リフォームしても大丈夫かと確認した」という遠藤さんは昨年5月、津波で全壊して骨組みだけになった自宅を1200万円以上もかけて修理した。ところがそれからまもなく、土地区画整理事業の計画が持ち上がり、今年6月の住民向け説明会では大規模な盛り土かさ上げ工事が計画されていることが明らかにされた。遠藤さんは、腰も抜かさんばかりに驚いたという。

白幡喜美雄さん

同じ地区に住む白幡喜美雄さん(64)も、「土地区画整理事業には反対だ」と言い切る。自宅の目の前で津波が止まったため、白幡さんの自宅にはまったく被害がなかった。にもかかわらず、家屋の解体と立ち退きを求められている。

白幡さんが「理不尽だ」と感じているのは、自宅のある場所が土地区画整理事業で「公園用地」に区分けされていることにある。「住まいを取り上げておいて、跡地を公園にするとはどういうことなのか」と白幡さんは憤りを隠さない。

女川町復興推進課の伊藤力課長は「山すそで土砂災害警戒区域に指定されている場所なので、新しく家を建てるのは難しい。そうした理由もあって公園用地にした」と説明する。しかし、我が家を終の住処と決めている高齢の住民にとっては、簡単に納得できる話ではないようだ。

住民が心配しているのは、盛り土かさ上げ工事をしている最中の仮住まいの場所が今一つはっきりしないうえ、土地区画整理事業が終わった後に元の場所に戻れる保障がないためだ。

立ち退きの際の建物の補償額が低ければ、新たに家を建てたり中古物件を購入することも難しい。「生活が困窮することはあってはならないというのが町の考え。民間アパートや公営住宅を含め、仮住まいとなる住宅は全力を挙げて用意する」(前出の伊藤課長)。とはいえ、立ち退きを求められている女性(61)は、「不安で夜も眠れない」と話す。

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