被災者を追い立てる震災復興事業の不条理 石巻、女川で進む区画整理、道路建設の実態

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二丁谷地の風景

防潮堤や河川堤防を整備した後も、数十年から百数十年に一度の津波の際に浸水する可能性がある地域は「災害危険区域」に指定された。ところが、住民の中には、被災した住宅をリフォームした後に、自宅が災害危険区域になってしまった人もいる。

石巻市北上町二丁谷地は、北上川に注ぐ皿貝川と大沢川に囲まれた水田が広がる農村地帯で、震災前は集落に21軒の住宅があった。それが、津波による被害によって3分の2以上が消失し、現在は7世帯だけが生活を続けている。二丁谷地行政区長を務める及川正昭さん(65)も、リフォームが裏目に出た。

及川正昭さんと阿部勝秋さん

及川さんは、天井近くまで水に浸かって全壊の被害を受けた自宅を、地震保険の保険金を元手に1000万円もかけて修理した。震災が起きた年のことだ。「その当時は、建築が制限される災害危険区域に指定されるという情報もなく、災害危険区域という言葉も知らなかった」と及川さんは振り返る。

石巻市が災害危険区域の指定に踏み切ったのは2012年12月。この時点で、同じ集落に住む阿部勝秋さん(70)も、1000万円をかけて自宅の外壁、トイレ、風呂の全面改修を済ませていた。

災害危険区域に指定された後も、今の住宅に住み続けることはできる。しかし、新築や増築は厳しく制限されるため、その土地ではやがて人が住めなくなる。

途方に暮れる危険区域の住民

石巻市によれば、今回指定された469ヘクタールに及ぶ災害危険区域に、すでに消失したものも含めて約7000世帯の住宅があったという。その中には、リフォームを実施した後、現在も人が住み続けている住宅も少なくない。

市は災害危険区域の指定に際し、事前に住民に説明したというものの、意味がよくわからないままに同意のサインをした人も珍しくないという。そのことが今になって住民が行政のやり方に不審の念を抱く原因にもなっている。

石巻市は災害危険区域の住民に対して、「高台移転」(防災集団移転促進事業)や災害公営住宅への入居という方法も示した。しかし、高台移転では新たにローンを組んで自宅を建設する必要があることから、高齢の及川さんや阿部さんは「とても手が届かない」と考えた。かといって今のままというわけにもいかないため、及川さんも阿部さんはやむをえず、危険区域の宅地の買い取りを申し込んだ。ただしこの場合に問題になるのが、買い取り価格の水準だ。

石巻市によれば、北上町での宅地買い取り価格は震災前の実勢価格の約7割にしかならないという。市のニュースリリース(2013年3月6日)では北上町内での概算土地価格は1㎡3760円と書かれている。住宅再建の元手にするには、あまりにも少ない金額だ。かといって、買い取りスキームを活用しないと、将来にわたって危険区域に取り残されることになる。

このように被災地では、復興事業に伴って住む場所を追われる住民が相次いでいる。にもかかわらず、国や自治体は、この問題を正確に把握していない。当然、生活の破壊を防ぐための有効な手立ても講じられていない。

「土地区画整理事業など、平常時の公共事業で用いられる手法をそのまま被災地の復興に適用することには問題が多い。災害に見舞われた住民の土地を半分だけ買い上げるといった例などは、あまりにも乱暴だ。買い取り価格も生活の再建には足りない可能性が高い」

阪神・淡路大震災後の復興事業に詳しい塩崎賢明・立命館大学教授がこう指摘する。住民の生活再建を後回しにして進める復興事業は、被災地に新たな災厄を引き起こしかねない。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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