安倍首相の「対ロ交渉姿勢」が危なすぎるワケ 先人の努力を軽視しているのではないか

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プーチン大統領も同じ考えであるかのように安倍首相は述べているが、同大統領は、本心では平和条約交渉を急いでいないことは、従来の発言からも明らかである。北方4島を占領しているのはロシアだから、急ぐ理由は本来ないのだ。

第2に、安倍首相は、これまでの先人の努力を無視、あるいは軽視しているのではないか。1973年、田中角栄首相がソ連を訪問し、「ブレジネフ書記長との最終会談で田中首相から、未解決の諸問題の中には4島の問題が入っているということを確認したいと述べたのに対し、ブレジネフ書記長は、そのとおりであると答えた。そこで田中首相から重ねて、諸問題の中には4つの島が入っていることをもう一度ブレジネフ書記長から確認してもらいたいと述べたのに対し、ブレジネフ書記長はうなずきながら、結構ですと答えた」。カッコ内の引用は、「ですます」調を改めるなど一部読みやすくしたが、外務省『われらの北方領土』に記載されていることだ。

1956年の日ソ共同宣言には「4島」と記載されなかったが、16年かけてここまでこぎつけたのだ。

4島の名前まで明示

1991年、ゴルバチョフ書記長の訪日が実現し、海部俊樹首相と会談した後に発表された共同声明においては、「歯舞群島、色丹島、国後島および択捉島の帰属についての双方の立場を考慮しつつ領土画定の問題を含む」両国間の平和条約の話し合いが行われたと発表された。

田中首相の時には、具体名のない「4島」であった。それでも大変な前進だったのだが、それから18年後のこの時には、「歯舞群島、色丹島、国後島および択捉島」と明示されたのだ。しかも、これら4島が平和条約において解決すべき領土問題の対象であることが確認された。

1993年、細川護煕首相は訪日したエリツィン大統領と会談し、その結果発表された東京宣言では、「択捉島、国後島、色丹島および歯舞群島の帰属に関する問題」を「歴史的・法的事実に立脚し、両国の間で合意の上作成された諸文書および法と正義の原則を基礎として解決することにより平和条約を早期に締結するよう交渉を継続し、もって両国間の関係を完全に正常化すべきことに合意する」と明記された。

ここに挙げたのは複雑な交渉の中核部分だけであり、実際には、日ロ双方の関係者の膨大な量に上る、粘り強い努力があったからこそここまでこられたのであった。

安倍首相にはこの先人の努力を無視してもらいたくない。先人の努力は何ものにも代えがたい貴重なものであり、自分が在任中に解決することを決意したとして片付けられることでない。

安倍首相は、北方領土問題を「次の世代に先送りしない」と言っている。先人が「先送りした」とは言っていないようだが、そう解釈される。そうであれば、この表現は適切でないと言わざるをえない。誰も「先送り」などしなかった。

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