村上春樹氏「妻が悪い書評だけ読み聞かせる」 10月に「騎士団長殺し」の英訳版が発売

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――あなたにとって執筆は困難?

自分のものを書いていないときは翻訳をしていて、待つ間にするのに非常に良い。書いてはいても、自分の小説ではない。訓練もしくは肉体労働のようなものだ。ジョギングをしたりレコードを聴いたり、アイロンがけなど家事もする。アイロンがけが好きで。執筆しているときに心が乱れるようなことはない。基本的に書くのは楽しい。

――自分の作品の書評は読む?

書評は読まない。多くの作家はそう言うものの、うそをついている。でも私はうそをついていない。だだ、妻はすべての書評を読み、悪いものだけを大きな声で私に読んで聞かせる。悪い評価を受け入れるべきだと彼女は言う。良い評価は忘れろと。

メタファーを説明したり、分析することはできない

――あなたの作品は非現実や幻想にあふれている。あなたの生活も?

基本的に書くのは楽しいという(写真:Nathan Bajar/The New York Times)

私はリアリスティックな人間、現実的な人間だが、フィクションを書くときは自分の内にある奇妙な秘密の場所を訪れる。私がしているのは自己の探求だ。自分の内面の。目を閉じて自分の中に飛び込むと、異なる世界が見える。宇宙を探検するように自分の内側を探検する。非常に危険で恐ろしい場所なので、戻り方を知っておくことが大切だ。

――作品に込めた意味について語るのは得意ではないようだ。

人々はいつも作品について質問する。これはどんな意味があるのか、あれはどんな意味なのかと。でも私にはまったく説明することができない。私は自分自身のこと、そして世界のことをメタファーとして語るが、メタファーを説明したり分析したりすることはできない。ただそのスタイルを受け入れるしかない。1冊の本は1つのメタファーだ。

――『騎士団長殺し』は、約10年前にあなたが日本語に訳した『グレート・ギャツビー』に敬意を表したものだとあなたは述べている。『グレート・ギャッツビー』はアメリカンドリームの限界を描いた悲劇的な物語とも読めるが、あなたの小説にどんな影響を?

『グレート・ギャツビー』は私の愛読書だ。学校を出て17歳か18歳のときに読み、ストーリーに感銘を受けた。夢について、そして夢に破れたときに人はどう行動するのかを描いていたから。それは私にとって重要なテーマだ。アメリカンドリームに限らず、一人の若者の夢、夢全般だ。

――あなたはどんな夢を見る?

夢は見ない。月に1度か2度だけ。もっと見ているかもしれないが、夢をまったく覚えていない。でも私は夢を見る必要がない。書くことができるから。

(執筆:Sarah Lyall、翻訳:中丸碧)
(C)2018 The New York Times News Services 

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