GPIFのリスク性資産への分散投資を提言 年金改革最終報告

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11月20日、公的年金の改革を議論する政府の有識者会議は、公的年金の国内債券を中心とするポートフォリオの見直しが必要だとする最終報告を取りまとめた。写真は8月、都内で撮影(2013年 ロイター/Issei Kato)

[東京 20日 ロイター] - 公的年金の改革を議論する政府の有識者会議(座長:伊藤隆敏東京大学大学院教授)は20日、公的年金が国内債券を中心とするポートフォリオの見直しが必要だとする最終報告を取りまとめた。

安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」で、デフレから脱却し適度なインフレに移行しつつあるとし、公的年金の収益率向上や金利リスク抑制の観点から投資の分散が必要だと提言した。これにより、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)など巨額の年金マネーが動き出す。

最終報告書は、GPIFなど公的年金による運用資産の国内債への依存を減らし、株式などリスク性資産への投資配分を高めることと、そのための公的年金のガバナンス(統治)体制の改革を掲げた。今後の計画として、現行法で可能な取り組みから法改正の必要な取り組みまでを3段階に分類した工程表を提示。会見した伊藤座長は、最終段階の実現は「一番遅れても2015年春」(伊藤座長)と見通し、必要に応じた閣議決定や予算要求が年末までに実施されるよう期待するとの認識を示した。

報告書は、運用面で直ちに取り組むべき課題として、現在の基本ポートフォリオの枠内での運用見直しを挙げている。また、1年をめどに取り組む課題としては、来年に予定される財政検証を経た基本ポートフォリオの見直しや、小規模で施行的な運用をする「ベビーファンド」の設置を掲げた。

運用対象は、現行の国内外の債券・株式だけでなく、不動産投資信託(REIT)や不動産投資、インフラ投資、ベンチャーキャピタル投資、プライベート・エクイティ(PE)投資、コモディティ投資などの追加を提言。各投資先の流動性に応じ、1年をめどに順次、加えていく。アベノミクスのもとでインフレ環境に移行することを見据え、物価連動国債を運用対象にすることも提言。リスクヘッジのためのデリバティブの利用も記した。

外国資産への投資配分拡大の是非は有識者会議としての意見をまとめず、報告書で「各資金が適切に判断する必要がある」とするにとどめた。

現行で東証株価指数(TOPIX)をベンチマークに採用する国内株式のパッシブ運用では、株主資本利益率(ROE)を重視する新たな指数であるJPX日経400のベンチマークとしての採用も提言。これ以外の指数でも、優れたものがあれば採用を促すとした。

ガバナンスの面では、本格的にGPIFを運用主体として組織改革するには、独立行政法人から別法人に移行する必要があると提言した。現在は、理事長ひとりの独任制をとるが、複数の理事による理事会を設け、運用方針を決める権限を与える必要があるとし、特殊法人の形態への移行が想定されるという。運用委員会に複数の常勤委員を配置し「専門家が理事会に運用アドバイスをする」(伊藤座長)としたほか、人員数や給与水準、経費も民間の運用会社のように弾力的な運営ができるよう提言した。

株式の投資先企業への関与は、金融庁で議論している日本版スチュワードシップコードの検討結果を踏まえることが重要だとしたが、過度な関与や形式的な議決権行使が行われないよう留意が必要だと指摘した。

公的年金改革は、過去にも検討が重ねられたものの実現には至らなかったという経緯がある。伊藤座長は、これまでの取り組みでは「必ずしも厚生労働省に受け入れてもらえなかった」と指摘。今回は共同事務局として厚労省も参画しており「厚生労働省も改革の必要性を感じている。政府全体が改革への意欲を持っている」と述べた。

(平田紀之 編集:田中志保)

*情報を追加して再送します。

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