気軽に始めて職場崩壊「危険な人事制度」2選 「目標管理、インセンティブ」御社は大丈夫?

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問題2:組織のシナジーを失ってしまう

インセンティブ制度による自由競争の組織になると、個々人の自由度が増す代わりに、社員が相互に協力するということが阻害される可能性があります。

報酬にメリハリをつけるということは、もちろんアップサイドを考えればいいことですが、人は得よりも損を回避するほうを優先するため、強烈なインセンティブ制度は一部の自信家以外にとっては恐怖です。

恐怖にかられた人は、人のことを考える余裕はなくなり、行動は利己的になっていきます。そして、その利己的な行動をさらに礼賛するかのように、インセンティブを与えるわけですから、協調性が失われ、組織のシナジー(相乗効果)が失われていっても不思議ではありません。

問題3:創造性が低下する

インセンティブとは、心理学的に言えば、いわゆる「外発的動機付け」です。俗な言い方で言えば、「馬の目の前にニンジンをぶら下げて走らせる」ような動機付けの仕方です。

これは、即効性はあるのですが、人間はどんな感覚でも鈍麻していく(慣れていく)ために、徐々に効果は薄れます。効果を維持しようとすればどんどんインセンティブ、つまりお金を上げ続けなければなりません(ただし、それも研究によれば、限界があるようです)。

ところがこの「外発的動機付け」は、好奇心や使命感など、自らの内側からくる衝動から動く「内発的動機付け」を阻害するという副作用もあるのです。

せっかく面白くて算数をやっている小学生に、「100点取ったらおもちゃを買ってあげるよ」と動機付けすると、そのうちおもちゃ(インセンティブ)のために算数の勉強をするようになってしまい、インセンティブがなくなればすべての動機の源が失われるということです。

しかも、特に近年必要とされる創造性は、「内発的動機付け」に強く関連があるとされています。たしかに外発的にやらされてやるよりも、自分から内発的にやるほうが、面白いものを作れそうです。つまり、外発的動機付けを強化すると、創造性に悪影響を与える可能性があるということです。

以上のように、「やった分だけ報酬を与える」という、極めてシンプルで、当然に見えるインセンティブ制度にも、いろいろな問題点があり、副作用を考えずに導入するとひどいことになってしまうということです。

人事はセオリーを持つべき

以上、よく導入されているポピュラーな制度を例に、それぞれの危険性にフォーカスして考えてみました。

『人事と採用のセオリー』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

マイナス面ばかりを挙げたために、私がこれらの制度や施策について反対派だと思われたかもしれませんが、決してそうではありません。

私があえてこれらのポピュラーな制度や施策に対してマイナス面を挙げてみたのは、一にも二にも冒頭で申し上げたように、「流行で人事を行うな」「セオリー(原理・原則)をきちんと知って、いくら流行の制度でも、自社に合わないものは合わないと、適切な取捨選択をしてほしい」と思うからです。

セオリーを知った人事は流行に揺らぐことがありません。自社の環境やリソース、ニーズを踏まえて、セオリーに従って人事を行ってこそ、最も効果的な人事を行うことができるのです。

曽和 利光 人材研究所 社長

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そわ としみつ / Toshimitsu Sowa

株式会社人材研究所 代表取締役社長、組織人事コンサルタント

京都大学教育学部教育心理学科卒業。リクルート人事部ゼネラルマネジャー、ライフネット生命総務部長、オープンハウス組織開発本部長と、人事・採用部門の責任者を務め、主に採用・教育・組織開発の分野で実務やコンサルティングを経験。人事歴約20年、これまでに面接した人数は2万人以上。2011年に株式会社人材研究所設立。現在、人々の可能性を開花させる場や組織を作るために、大企業から中小・ベンチャー企業まで幅広い顧客に対して諸事業を展開中。著書等:『知名度ゼロでも「この会社で働きたい」と思われる社長の採用ルール48』(東洋経済新報社、共著)など。

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