働き方を変える「Slack」、急成長の舞台裏 会社の合い言葉は「しっかり働き家に帰ろう」

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ちなみに、本社内にバターフィールドCEOの個室はない。「どこにもないんですか?」と尋ねると、「いろいろなところをまわっている」と一言。ある社員によると、「入社してすぐ話しかけにきてくれた。今では互いにインスタをフォローしている」とのこと。かなり気さくなようだ。

各フロアにオープンスペースを設けるなど、部署が異なる人同士が話をしたり、声を掛けたりしやすい工夫も施されている。

「ロフト」的なスペースもある(写真:スラック)

「いつでも食べ放題」にしない理由

食堂のポリシーもまたユニークだ。ハイテク企業では、朝昼晩と無料で食べ放題ということが少なくないが、スラックが提供するのは月曜日の昼食と金曜日の朝食のみ。それには、特定の企業と契約をしてそこのモノばかりを食べるのではなく、「外に出て近所の店にお金を落とすだけでなく、社外でいろいろな体験をするべき」という考えがあるから。月曜日や金曜日の食事も同じところから調達するのではなく、日ごとにいろいろな店から取り寄せるようにしているという。

スラックの食堂では、木曜日夜にカラオケなどのイベントが開かれることも(記者撮影)

急速に成長しているハイテク企業でありながら、どこか成熟していて、落ち着きがあって、あくせくしていない。それが、多様な人材の採用につながり、多様な働き方に対応できるようなツールの開発につながっているのだろうか。

目下、800万人のユーザーを抱えるスラックだが、これは同社がポテンシャルユーザーとみる2億人のたった4%にすぎない。すでにユーザーの半分以上がアメリカ外というスラックが、中でも大きな市場と見ているのが日本である。実際、日本のアクティブユーザー数は50万人と、アメリカに次いで2番目に多い水準だ。将来的に、この数は「東京だけでも500万~800万人に膨らむ」(バターフィールドCEO)とかなり有望視している。

各フロアに置いてあるスナックは、微妙に異なるため、ほかのフロアを訪ねるきっかけにも。休憩エリアには、このほか地元の生ビールやジュースが飲めるサーバーもある(記者撮影)

それには、スラック導入によっていかにコミュニケーションやコラボレーション環境が改善されたのか、という成功ストーリーを伝播していかなくてはならない。スラックは、単一チームで導入しただけではそのダイナミズムはおそらく感じられない。部署や職域の異なる人たちがコラボするツールとして使うことで、初めてその利便性がわかるかもしれないだけに、全社導入に向けた働きかけは重要になる。

さらに、今後収益面で成長するには、有償サービスの利用者を増やす必要がある。現在、スラックには、ストレージの規模や検索機能、やり取りできるメッセージの数などに応じて、無償を含む3段階のサービスを提供している。昨年9月時点でスラックは有償サービスユーザー200万人から年間2億ドル相当の継続的な売り上げがあったことを明かしており、有償サービスユーザーが100万人増えた今年は年間3億ドル相当の売り上げになっている可能性もある。もっとも、今でも半分以上は無償サービスを利用しており、今後も機能拡充など既存利用者をステップアップさせる方策が欠かせない。

近年、ハイテク業界は「GAFA」と呼ばれるグーグルやアップル、フェイスブック、アマゾンという大手ハイテク4社に“支配”されつつあり、新しいサービスや技術が出てきても巨人たちが、資金力を武器においしいところをもっていってしまうことが少なくない。

それでも、バターフィールドCEOは、「小規模で、1つのことに特化している会社はそれこそが強み」と言う。マイクロソフト、グーグル、フェイスブックのような会社も駆け出しのときはそうだった、と付け加える。世界的に働き方を見直す動きが加速しているのは追い風だろう。

いくつものアップダウンを経験したバターフィールドCEO。今度こそ自らの会社を大きく育てられるだろうか。

倉沢 美左 東洋経済 記者

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くらさわ みさ / Misa Kurasawa

米ニューヨーク大学ジャーナリズム学部/経済学部卒。東洋経済新報社ニューヨーク支局を経て、日本経済新聞社米州総局(ニューヨーク)の記者としてハイテク企業を中心に取材。米国に11年滞在後、2006年に東洋経済新報社入社。放送、電力業界などを担当する傍ら、米国のハイテク企業や経営者の取材も趣味的に続けている。2015年4月から東洋経済オンライン編集部に所属、2018年10月から副編集長。 中南米(とりわけブラジル)が好きで、「南米特集」を夢見ているが自分が現役中は難しい気がしている。歌も好き。

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