アップルはこれから何で稼ぐのか? ハードウエア路線を転換する可能性は?

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一方で、もうひとつiPhoneビジネスの先行きを示唆する数字がある。iPadの売り上げと利益の推移だ。iPadは2012年から2013年にかけて販売台数を20%以上伸ばした。しかしiPadから得られる利益はわずか3%しか伸びなかった。その要因は、これまでのiPadに加えて、小型で100ドル安いiPad miniを投入したことが要因と見られる。

さらに、2013年モデルとなるiPad AirとiPad mini Retinaディスプレーモデルを投入した。アップルが、既存のRetinaディスプレーを搭載していないiPad miniを299ドルで販売したことで、ユーザーは、iPad発売当初の499ドルよりも200ドル安くiPadを体験することができるようになった。これによりiPadの販売台数は増えていく可能性は高いが、利幅は縮小し続けるだろう。

2012年にiPadに起きたことが、2013年にiPhoneにも起きた。iPhone 5cの登場である。すなわち米国では通信会社を通じてiPhone 5sの199ドルから販売されるのに対して、iPhone 5cは99ドルから販売されるようになったのだ。これまでも旧端末を値下げして販売してきたが、新端末を安くするという点で、iPadに対するiPad miniと同じ位置づけになる。

アプリの収益か、引き続きハードウエアか

アップルには、ハードウエアだけでなく、アプリやコンテンツ販売のストアがある。iTunes Store、App Store、Mac App Storeだ。2013年のiTunes事業では160億ドルを売り上げ2012年から約25%の伸びを見せた。もちろんこれも少なくない数字であり、伸び率も高いが、アップルの主要事業の10%程度に過ぎない。

ハードウエアの魅力を、コンテンツやソフトウエアがサポートする――そのプラットホームとして存在しているのがiTunes Storeだ。前述のとおり、飽和市場になればなるほど、アプリのラインアップや、「どのような現場で利用できるか」が重要になってくる。その点でアップルのデバイスは充分なポテンシャルがあるといえる。

しかしアップルは、ソフトウエア自体からの収益を、あまり大きく見込んでいるわけではないようだ。アップルはMac向けのOSの新版であるOS X 10.9 Mavericksと、iPhone/iPad、Mac向けのデジタルコンテンツ編集アプリ群「iLife」、ワープロやプレゼンテーションなどを作成するアプリ群「iWork」を、新しいハードウエアを購入するユーザーに対して無償化した。

アップルの狙いは、コンシューマーとライトなプロユーザーに、MacやiPhone、iPadの魅力を高める、ベーシックなアプリ群を無償で使ってもらおうことだ。これは、アップル製品の“初期体験”を最優先するための「投資」ともいえる。言い換えれば、これらのアプリの販売で得られる2000円弱の収益より、“初期体験”を重視したということだ。

アプリプラットホームからの収益には引き続き期待するが、アップルならではの初期の体験を作り出すアプリは無料にする。つまり、アップルは引き続き「ハードウエアの会社」であることを明確にしたような出来事であった。

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