鈴木敏夫氏「ひっそり生きたほうが幸せです」 「認めてほしい」という思いを捨てませんか?

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――本にはお母様のエピソードもたくさん出てきます。お母様からたくさん影響を受けたのでしょうか。

受けましたね。ドライでしたよ。情緒的なところがなかった。

――サラリーマン時代に肩書が上がったとお母様に報告したら、逆に怒られたとか。

怒られましたねえ。この本にも書きましたが、「会社が肩書を上げる目的はひとつ。お前を働かせようとしているんだ」ってね。仕事をするうえで最も大事なものは何か。それは「要領だよ」。この要領というのも、実は仏教だよね。だから要領が悪い人は仏教心がないということになる(笑)。

適当に生きることはいちばん難しい

――高畑監督の映画『ホーホケキョ となりの山田くん』に、藤原先生が今年の決意として「適当」という紙を黒板に貼り出すシーンが出てきます。コミカルなシーンに見えますが、適当に生きるのがいちばんよいことだとも読み取れます。

(撮影:尾形文繁)

適当に生きることはいちばん難しいと僕は思います。そんなに簡単ではありませんよ、適当に生きるのは。「適当に」とか「要領よく」という言葉がネガティブワードになっている世の中のほうがおかしいと思います。

――効率化、生産性とか、世の中がどんどんギスギスしています。

僕はよくわかりませんが、ビジネスでみんながお金を稼がないといけない、ストレスが強い時代ですよね。だから、もう少しみんな楽しくやったらどうですかって、言いたくなりますね。

――禅について学んだり、座禅を組んだりすれば、悩みも解消するのでしょうか。

いろいろと苦労されているのですか?

――いえ、でも仕事をしていると苦労が多いですよね。

そうなんだ。でもそれはどうにもならないですよ。僕が好きな言葉は「どうにもならんことはどうにもならん。どうにかなることはどうにかなる」。あるお寺に行ったら、そういったことが書いてあって、すごい言葉だなと思いました。

――鈴木さんなら、どうにもならないことをどうにかしてしまうのでは?

そうでもないですよ。どうにもならないことはたくさんあります。それはもうあきらめます。人間あきらめが肝心です(笑)。

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――世間には、やはり自分のことをわかってほしいって思っている人たちはたくさんいると思いますが。

僕は自分のことをわかってもらえるなんて思わない。自分で自分のこと、わかっているのかって言えば、わからないわけですよ。自分でわかってないのに、どうやって人にわかってもらうのかって考えたら、ばかばかしいことですよね。だから、学者が言うような承認欲求なんてあんなバカなことを言って世間を惑わすことに腹が立ちますよ。自分の納得がいくように生きればいいじゃないですか。僕の中には、誰かに認められたいとか一切ない。

――認められないよりは、認められたほうがいいのかなと思うときもあります。

ひっそりと生きたほうが幸せですよ。自分でひそかに楽しんでいればいいじゃないですか。僕はそう思いますよ。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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