ソフトバンク孫社長「AI群戦略」独演会の全容 無風の決算発表は「フリートーク」に終始

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ただ、AI時代のライバルも手強い。米グーグルや米アマゾンといった巨大なIT企業も、それぞれ検索エンジンやEC、クラウドサービスから膨大なデータを吸い上げ、技術革新に向けた投資を重ねている。

「AIが恐ろしい勢いであらゆる産業にやってくるなら、自分たちで新卒社員を集めて(育てて)、わかる範囲の分野だけをやっていても間に合わない」。孫社長はライバルと競争するためのスピード感の重要性に触れた。「だからAI群戦略を実施する。グループ内でシナジーを促して助け合い、協力し合って新しい革命を起こす。1社で完結できるほど甘いものではない」と持論を展開した。

AI時代はチップと通信インフラが重要に

具体的なシナジーとは何なのか。孫社長は傘下の英アームの半導体のチップを一例に挙げた。「今後は出荷されたチップから勝手にデータを収集し、分析する時代がやってくる。データによって、あらゆるものを今よりも最適化できる」「地球全体をスマート化する。クラウドとのやり取りはリアルタイムで、(次世代高速通信規格の)5Gネットワークは不可欠だ。通信を得意とするわれわれは、通信インフラを最大限活用する」などと説明した。

孫社長は自らが買収を主導した半導体メーカー「アーム」の重要性を強調した(撮影:梅谷秀司)

孫社長はさらに、「(この構想で)カギとなるのはアームのほか、(SVFが出資する)米エヌビディアをはじめとする、クラウドやAIが不可欠な時代に重要になる会社だ」としたうえで、「ソフトバンクがエヌビディアに出資したり、アームを買収したりした当時は、多くの人が『なぜ?』とチンプンカンプンだったと思うが、その時点で私は50手先を打ちに行っていた。今回はそのうちの何手かを解説した」と語った。そして設立から2年経つSVFについて、「大変重要なタイミングで作れた」と自賛も忘れなかった。

AIにアクセルを踏むSBGは間もなく、大きなターニングポイントを迎える。この年度末に控えるのが、SBGの中核、携帯子会社ソフトバンクの上場だ。

「スティーブ・ジョブズがiPhoneを発表する前から『スマホの時代』を予感し、ボーダフォンを買収(2006年)して私の体重(費やす時間)を完全に移した」と孫社長は通信企業としての成長を振り返り、「同じことをもう一度やる。まだ売り上げにほとんど貢献していないAIに完全に体重移動した。それがビジョンファンドとしての取り組みだ」と力を込めた。

8月11日に61歳になる孫社長の野望は、今後ますます多くの注目を集めそうだ。

奥田 貫 東洋経済 記者

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おくだ とおる / Toru Okuda

神奈川県横浜市出身。横浜緑ヶ丘高校、早稲田大学法学部卒業後、朝日新聞社に入り経済部で民間企業や省庁などの取材を担当。2018年1月に東洋経済新報社に入社。

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