なぜ「なんでも外注主義」が地方を滅ぼすのか 地方に大事な「3つの能力」が消えかけている

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では地方はどうすればいいのでしょうか。答えは以下です。

外注よりも人材へ投資をする。
外注依存の「毒抜き」のためにも、自前の事業を一定の割合で残せ

当事者たる地元の人たちの知識や経験を積み上げて、独自の動きをとるのがなんといっても大切です。

もし、自分たちが取り組む事業の参考に少しでもなる事例について調べたければ、自分たちがその地方に訪ねてその実態を細かく調査してレポートを書かなくてはなりません。調査を業者に外注したうえに「どうやったらいいか」まで考えてもらっても、本当にそうなのかわからないままに鵜呑みにしてやることほど、恐ろしいことはありません。

「自力で考える力」を養うためには?

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調査などレポート作成に多額の予算を積むのであれば、その一部でも行政であれば職員に、企業であれば社員が自ら調べたり、考えるのに必要なスキルを身に付けるのに調査予算を委ねて自前で調査させたり、自ら研修に参加する予算を捻出して人材投資をするほうが、地方にとっては「自力で考える力」を形成できます。

たとえば、岩手県の紫波町では前町長の藤原孝氏の方針によって、住民参加に向けたワークショップは外注が禁止されました。そのかわり、職員が最低限のスキルを身に付ける研修を受ける研修費には予算をつけました。ある時「なぜ外注させずに研修に予算だすのか」と藤原氏にお聞きすると、「毎年300万円の外注をすれば10年で3000万円かかる。しかし、職員に50万円の研修でも受けさせて学ばせたら、大抵の役場職員はやめないから、同じことを職員だけで何度でもやれる。10人に研修うけさせても、500万円で済んで、あとは外注はいらないから地元の負担も軽く、職員もプライドと責任をもってやる」とおっしゃっていました。今では周辺自治体から紫波町の職員を指名してワークショップ講師の依頼が出るほどになっています。

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また別の自治体では、研修などを自腹で学んだ職員たちが、コンサルタントに多額の業務委託で調査してもらった内容に、大きな間違いがあることを発見しました。なぜわかったかといえば、なんと研修で来た講師が、その調査事業の対象となった事業の実践者だったのです。

このケースでは、実践者が自ら解説する内容をもとに学んでいたため自治体の担当者が、「実際の内容と違いますよ」と指摘したところ、コンサルタントも「いや、現地にいって聞いてきた」と言い張ったといいます。「そこまでいうなら今、やっている人に電話するから」といったら、コンサルはびっくりして謝ったのです。これでその自治体は、「外部はどれだけずさんな調査をしているのか」と初めて認識したといいます。このように、自ら学べば判断もつき、自分で考える糸口もつかめるわけです。

数十年前の総合計画などは自治体職員や地元専門家、メディアたちが自ら集まり策定したかなり数字も細かく掲載されている秀逸なものが多くあります。たとえば福岡市の「第二次総合計画」などは今の福岡市の優位性を形作った基礎とも言えます。さらにまちの小さな公衆トイレなどの公共建築なども役所の技師が自ら設計した優れたものが全国各地に残っています。外注管理ではない仕事が、地方の独自性を作り出すのです。

地方が自ら考え、自ら決めていくためには、まずはなんでもかんでも外注依存の現状を問題として認識し、段階的に「自分たちの頭で考え、実行する」自前事業の割合を増やしながら依存度の軽減に努める必要があります。まずは地方自らが「外注依存デトックス計画」を自分たちでたてるのが第一歩ではないでしょうか。

木下 斉 まちビジネス事業家

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きのした ひとし / Hitoshi Kinoshita

1982年東京生まれ。1998年早稲田大学高等学院入学、在学中の2000年に全国商店街合同出資会社の社長就任。2005年早稲田大学政治経済学部政治学科卒業の後、一橋大学大学院商学研究科修士課程へ進学、在学中に経済産業研究所、東京財団などで地域政策系の調査研究業務に従事。2008年より熊本城東マネジメント株式会社を皮切りに、全国各地でまち会社へ投資、設立支援を行ってきた。2009年、全国のまち会社による事業連携・政策立案組織である一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンスを設立、代表理事就任。内閣官房地域活性化伝道師や各種政府委員も務める。主な著書に『稼ぐまちが地方を変える』(NHK新書)、『まちづくりの「経営力」養成講座』(学陽書房)、『まちづくり:デッドライン』(日経BP)、『地方創生大全』(東洋経済新報社)がある。毎週火曜配信のメルマガ「エリア・イノベーション・レビュー」、2003年から続くブログ「経営からの地域再生・都市再生」もある。

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