豊作なのに喜べない、コメ卸の苦しい事情 新米商戦が本格化、店頭価格は1割安でスタート

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縮小

ところが、コメの需要は年々縮小しており、2012年は852万トンとピークだった1963年の1341万トンから4割弱減った。価格が高いことから、スーパーや外食チェーンなどで使用量を減らす動きも出た。その結果、卸業者からスーパーなどへの販売が低迷し、在庫が膨らんだのだ。

「古米となった12年産米は赤字覚悟で売るしかない」と卸業者の幹部は嘆く。豊作で新米が安いうえ、卸業者が12年産米の在庫を減らそうとして安値で販売すれば、コメ全体の価格下落に拍車がかかる。

古米の販売先は外食産業、弁当や総菜などを販売する中食産業が中心だ。外食、中食の業者は過去2年、コメの値上がりによる原価の上昇で苦労してきた。が、今年は卸業者が大量に在庫を抱えていることを知っており、いかに安値で調達するか、タイミングを計っている。大手回転ずしチェーンは「古米が安くなったところを買い付ける」と話す。

政府が余剰在庫を買い取る?

目下、業界関係者がかたずをのんで見守るのが、11月末に公表される「米穀の需給及び価格の安定に関する基本方針」だ。これはコメの需給の見通しや国が保有する備蓄米の運営方法を示すものだ。

そのタイミングで「TPPとの兼ね合いもあり、数十万トン規模の市場隔離政策(需給調整)が発動されるのでは」(卸業者首脳)とうわさが飛び交っている。国はコメの供給が不足する事態に備え、必要な量のコメを在庫として保有することになっている。その制度を利用して、国が卸業者の持つ過剰在庫を例年以上の水準で買い取るのではないか、という期待がある。ただ、本当に実施されるかは不透明だ。

コメの価格が大幅に下がることは消費者にとってメリットだ。しかし、流通を担う卸業者にとっては、しばらく厳しい局面が続くだろう。

松浦 大 東洋経済 記者

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まつうら ひろし / Hiroshi Matsuura

明治大学、同大学院を経て、2009年に入社。記者としてはいろいろ担当して、今はソフトウェアやサイバーセキュリティなどを担当(多分)。編集は『業界地図』がメイン。妻と娘、息子、オウムと暮らす。2020年に育休を約8カ月取った。

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