ニュー新橋ビルのすぐには解決できない悩み 多数の区分所有が耐震強度不足問題を複雑に

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現在は、権利者の合意形成に向けて事業の枠組みが検討されている段階。建て替え実現まで「早くて5、6年先」(準備組合)との見通しを立てているが、過去には行政によって正式に認められる「都市計画決定」までに20年以上かかった再開発事業もある。都市計画決定の後も、具体的な事業計画などの決定・認可を経て、事業組合などを立ち上げ、権利調整を行う。そうした手続きを経て、ようやく既存ビルを取り壊して工事が始まる。

それまでの間、震度6強~7で倒壊する可能性が高い「安全性の評価Ⅰ」の建物のままで営業を続けることが、今回の「実名」公表で難しくなったのは確かだろう。六本木ロアビルが決断したように先行して取り壊すのか、現在もサラリーマンでにぎわう駅前ビルを耐震改修して活用するのか。厳しい判断に迫られている。

区分所有者の合意形成が難しい

1日の乗車人員が渋谷に次ぐ27万人という新橋駅前にありながら、ニュー新橋ビルの建て替えが進まなかったのには理由がある。1棟の建物を区分した部分ごとに所有する「区分所有ビル」であるため、約320人いる区分所有者の合意形成が難しかったからだ。

同じ区分所有建物である分譲マンションでも過去に建て替えが実現した事例は2017年4月現在でわずかに232件。区分所有法では、区分所有建物の建て替えを決議するには区分所有者の5分の4以上の賛成が必要と定めており、このハードルをクリアするのがかなり困難なのだ。

2020年の東京オリンピック・パラリンピックの招致が決まった2013年に、筆者はニュー新橋ビルの区分所有権を保有していた小売店経営者を取材したことがある。虎ノ門ヒルズの完成を翌年に控えて、環状2号線(新虎通り)を中心に新橋・虎ノ門エリアの再開発事業への注目が高まっていたが、JR新橋駅前は蚊帳の外に置かれていた。

「40年以上も、ニュー新橋ビルの区分所有権を持っていたが、建て替えにはまだ時間がかかる。あきらめて中国人に売ったよ」

同ビルの1階や地下階には飲食店が多いが、外国人の区分所有者が増えてからはアジア系のマッサージ店が多く出店するようになった。管理組合によると、区分所有者の外国人割合は1割以下。それでも、今後の再開発事業を進めていくうえで「日本人の区分所有者との間で考え方の違いが出てくるかもしれない」(管理組合事務局)と不安を隠さない。

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