家造りから「大工」が消える?効率化の光と影 木造住宅の変化で人知れず消える技術と道具

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その結果、木造住宅の着工戸数が底打ちの感を見せる一方、大工の人数はピーク時の4割を切ってなお減少の一途をたどる。

大工が消えれば、大工が使う道具も消える。ノミやカンナといった大工道具の一大産地である兵庫県三木市では「大工道具を作っている業者は80社ほどあるが、昔ながらのカンナを作っている店となると5軒程度」(三木工業協同組合)。もう1つの産地である新潟県三条市でも「同様に厳しい状況」(三条商工会議所)だという。

【4月23日16:30追記】初出時、「道具を作っている店は今や5軒程度」となっていた表現を修正いたしました(編集部)

道具メーカーも苦境に

苦しいのは地場の金物業者だけではない。金属加工大手のリョービは2017年9月、ドリルや電動ノコギリ、ドライバーといった電動工具部門であるパワーツール事業を京セラに譲渡すると発表した。

子会社のリョービパワーツール時代から経営が振るわず、2001年には全社員の8割に当たる120人もの希望退職者を募った過去もある。生産拠点の海外移管や商品ラインナップの見直しなどのテコ入れを行うも、「パワーツール市場の成長が見込めない」(リョービ)ため、とうとう事業部門ごと手放す結果となった。

ネット上での署名活動の結果、復活が決まったコミ栓角ノミ機。値段は20万円を超える(写真:松井鉄工所)

こうしたことのシワ寄せは現役の大工に向かう。「コミ栓角ノミ機の復活を!」――リョービが2008年に製造を中止した電動工具の復活を求め、2014年末から2015年にかけて、ネット上で署名活動が展開された。

柱を組み合わせる際、くぎなどの金物の代わりに木材の凹凸をかみ合わせて固定させる。コミ栓角ノミ機は、その凹凸の加工に用いられていた工具の1つだ。署名運動を受け、三重県伊勢市の松井鉄工所が2016年に、リョービも2017年に復活させた。

伝統建築を手がける、ある宮大工も「昔に比べて道具が入手しづらくなった。鍛冶屋にオーダーメードで頼んでいるため何とかなっているが、コストがかかってしまう」とこぼす。

大工にとって厳しい状況が続く中、業界からは「伝統建築を修復する技能が継承されなくなる。機械で加工すればいいという話もあるが、建築物としてのおさまりを考えれば、木工技術を理解している職人は不可欠だ」(全国中小建築工事業団体連合会の佐藤桂太事務局長)という危機感が募るばかりだ。

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