「男の介護教室」で教えられる超実践的スキル 追い詰められる前に知っておきたい

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――震災直後、ボランティアに行く人はたくさんいましたが、移住までする人は、多くありません。なぜ、そこまでしたのですか。

今私が勤務をしている宮城県石巻市雄勝町の医療機関はすべて津波で被災しました。4300人いた人口は激減し、2018年1月末日時点で1604人です。

1000年に1度の大災害といわれるこの災害が起きたときに生を受けていた者として、歯科医師として雄勝町の歯科医療の再生と町の復興のお手伝いがしたいと思ったからです。

しかし、移住したいと妻に告げた際には猛反対でした。長野にあった生活や仕事すべてを犠牲にし、被災地に移住することが理解できなかったからです。当然ですよね。でも、被災地の状況を見てもらいたいと思い、妻を被災地に連れてきました。そこで、妻から涙とともに「来るしかないね」という言葉が出ました。

2012年3月に松本歯科大学病院を退職し、4月より宮城県石巻市の行政歯科医師として赴任しました。現在は石巻市雄勝歯科診療所の所長をしています。

孤立しがちな「男の介護」にもっと支援を

――今後「男の介護教室」を、どんなふうにしていきたいですか。

私も含め一緒に教室をやっているスタッフは皆平日は本業があるので「男の介護教室」と両立をしている形です。

おかげさまで、男性介護者支援に関心を持っていただくことが増えました。宮城県内で5カ所、青森県弘前市や熊本県等でも「男の介護教室」を開いてきました。少し変わったところでは、森永乳業さんで社員向けに教室を実施させていただいたこともあります。

おおむね、1カ月に2~3回の割合で「教室」を開いており、2017年は石巻市内だけで累計215名の方に参加していただきました。

超高齢化社会を迎え、介護は大きな社会問題として関心を集めています。ただ、要介護者への支援はありますが、介護者への配慮は、まだ足りないと思います。介護保険制度はあっても、在宅介護がなければ立ち行かないですよね。その現状を踏まえると、介護者が倒れてしまったらおしまいです。孤立しがちな男性介護者への配慮や支援が、もっとあればいいと思います。

私共は石巻を拠点にしています。他の地域でも、医療・介護関係者が、地域に合った「男の介護教室」を企画していけたら嬉しいです。

その際はある程度の資金が必要になってくると思います。今は、東北被災3県(岩手・宮城・福島県)にJENさんというNPOが助成をしてくださり男の介護教室を開催していますが2018年12月で支援は終了となります。

今後、高齢化社会や介護者支援に理解のある政府機関や自治体、財団などから助成金や寄付をいただけるようになると、とても助かります。

 

■あなたが個人でできること
・身近な男性が介護をしている可能性を知る
■企業ができること
・男性向けの介護教室を開く
治部 れんげ ジャーナリスト

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じぶ れんげ / Renge Jibu

東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授。日経BP社、ミシガン大学フルブライト客員研究員などを経て2021年4月より現職。内閣府男女共同参画計画実行・監視専門調査会委員、日本ユネスコ国内委員会委員、日本メディア学会ジェンダー研究部会長、など。一橋大学法学部卒、同大学経営学修士課程修了。著書に『稼ぐ妻 育てる夫』(勁草書房)、『炎上しない企業情報発信』(日本経済新聞出版社)、『「男女格差後進国」の衝撃』(小学館)、『ジェンダーで見るヒットドラマ―韓国、日本、アメリカ、欧州』(光文社)、『きめつけないで! 「女らしさ」「男らしさ」』1~3巻(汐文社)等。

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