メジャーの大舞台で「ゴミ」を拾った大谷翔平 今の活躍を支えるのは「メンタル」の強さ

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筆者は以前、自動車教習所の取材をしたことがある。野球とはまったく関係のない仕事だったが「いちばん教えるのが難しいのはどんな人ですか」と聞くと、「高校の野球部だね」という答えが返ってきた。

「高校野球の選手は、”わかったか”と聞けば”はい”と大きな声で返事をする。何を聞いても”はい”だが、あとでテストしたら、何にも頭に入っていないことが多くて困るんだ」

その言葉には筆者にも心当たりがあった。日本では野球選手あがりは、一言、二言話をすればすぐにわかる。彼らは年長者から言われたことは絶対に聞き返さないし、質問も、反論もしないことが多い。

日本野球は、鉄の規律で選手を鍛え上げてきた。指揮官の采配に絶対服従で動く「駒」を作り上げ、これを動かして勝利を勝ち取る。それが日本の野球であり、野球選手だった。

高度経済成長期までは、そういう鍛えられ方をした野球選手は、企業で大歓迎された。どんな指示にも服従し、文句を言わずにやり遂げる。まさに「企業戦士」にはうってつけだったのだ。

もちろん、高校野球の指導も以前に比べればはるかに柔軟になり、考える指導も行われるようになった。しかしそれでも「大きな声であいさつ」など、上下の規律はいきているし、指導者への絶対的な服従は今も全国で見られる。こうした環境から、「自分で考える強いマインド」を持った選手が生まれるのは難しいのではないかと思われる。

大谷翔平が本当に強いのは「メンタル」ではないか

大谷翔平の野球人生には「大きな声で”はい”」というような従来の日本の野球文化は入り込む余地がなかったと言えるだろう。だから大谷翔平は「小さなゴミを拾うこと」の大きな意味を自分で感じ取り、それを大舞台で実行したのだ。

彼のメジャー人生は、これ以上ない最高の滑り出しをした。しかし、世界中からずば抜けた才能を持ったアスリートが集まっているMLBである。スランプや、故障や、トラブルなど、さまざまな難問が彼を待ち受けているだろう。

それでも、大谷翔平はこれを乗り越える強さを持っている。どうしても投手や打者としての能力にばかり目が行きがちだが、大谷翔平が本当に強いのは「メンタル」なのではないか。朝のMLB中継を見ながら、その思いを強くした。

(文中敬称略)

広尾 晃 ライター

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ひろお こう / Kou Hiroo

1959年大阪市生まれ。立命館大学卒業。コピーライターやプランナー、ライターとして活動。日米の野球記録を取り上げるブログ「野球の記録で話したい」を執筆している。著書に『野球崩壊 深刻化する「野球離れ」を食い止めろ!』『巨人軍の巨人 馬場正平』(ともにイースト・プレス)、『もし、あの野球選手がこうなっていたら~データで読み解くプロ野球「たられば」ワールド~』(オークラ出版)など。

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