親会社と子会社での「給与格差」はなくなるか 「同一労働同一賃金」の隠れた論点

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たとえば、正規社員と非正規社員(契約社員)が混在する営業部門を取材したときの話です。格差は相当にある様子でした。そもそも、その営業部では営業目標や担当する取引先の社数に正規or非正規社員で差がありません。経験が豊富な契約社員で、高いレベルの仕事を任されている人もいました。ところが、待遇には厳然とした差がありました。正社員は将来的に管理職への道も開かれており、営業職としても高い報酬が約束されています。対する契約社員の報酬は正社員の2/3以下。正社員への登用も少なく、管理職になることは皆無。さらに

「正社員と比べて、われわれは放置されているような状態」

取材した契約社員はそう認識していました。その契約社員の方曰く、管理職は正社員ばかりをケアしている。契約社員は難易度が高い取引先ばかりを担当させられ、責任を取らされると感じているとのこと。

日頃の不満から被害者意識的なものもあり、多少は誤解もあった可能性ありますが、管理職が報酬以上の仕事を契約社員に強いているのは間違いない様子でした。職場では正社員と契約社員の対立が起きつつあり、雰囲気もよくないように見受けられました。

こうした、そもそも報酬が違う正規社員と非正規社員に同じミッション(役割)を管理職が求めており、同一労働同一賃金が実現できない、格差のある職場はたくさんあるのではないでしょうか。

これまで正規社員の働き方を基準にし、管理職が無意識に、それに非正規社員を合わせることが長く容認されがちでした。本当は非正規社員の報酬に合わせて仕事を任せなければいけないのに、きわめてざっくりとしたマネジメントがされてきたのです。

ただし今の時代、職場における非正規社員の比率は各社でかなり高くなっています。十把一絡げのマネジメントでは許されない時代になってきたのです。

さらに非正規社員はみな正規社員になりたいはず……という発想もずれたものになりつつあります。非正規社員のままで専門性を高め、キャリアアップを目指す人も増えています。

ところが、格差の改善が進まない職場がいまだに多数見受けられる状態。なので、同一労働同一賃金が、政府を巻き込んだ大掛かりな取り組みとなってきたのです。現在では前述した同一労働同一賃金ガイドライン案が作られ、安倍晋三首相は「わが国から非正規という言葉を一掃することを目指す」と言っています。今後は同一労働同一賃金の実現に向けて、法改正の動きが本格化していく見通しです。

子会社社員と親会社社員との給与格差

ただ、格差の対立軸は正規・非正規だけではありません。その1つが子会社社員と親会社社員が同じ仕事をしていながら格差が生じているケース。

筆者が勤務していた職場でも子会社・親会社で給与に差がありながら同じ(ないしは低いレベルの)仕事をしている社員がたくさんいました。たとえば、本社から出向してきた社員が子会社で補助的な仕事に従事。ところが、給与は子会社の社員の誰よりも高いベースで支給されていました。その事実を知った子会社の社員たちは「高い給与もらっているのだから、自分で考えて仕事に取り組んでください」とキツイ言葉を投げかけ、険悪になる場面に遭遇したことがありました。

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