教育が職業に直結、ドイツ社会の「雇用哲学」 秘書も「職業資格」が無ければ採用されない

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いずれにせよ、学校で理論、会社で実践を学ぶという制度設計で、デュアルシステムと呼ばれている。職業訓練を終えたあとは、そのまま社員として契約する人もいれば、他社の同職種へ応募する人もいる。

職業によっては中世からの遍歴修業の伝統を残しているものもある。写真は大工の修業中の青年。伝統的な大工の服や小道具を持って回っている(筆者撮影)

大学に進学した場合も卒業後、職業訓練が必要な職業もあるが、いずれも専攻学科が限りなく「職業」に近い。

工学系出身で、「職業・エンジニア」とするのは、日本社会から見てもわかりやすいが、この感覚で、たとえば社会学を修めた者が企業に就職し、名刺には組織の肩書とともに、「社会学者」と名刺に書く人も少なくない。

それからドイツは「大学入学資格」を取得すると、原則として、いつでもどの大学へも行ける。そのため、大学に進学せずに職業学校へ進む人もいる。また職業訓練後に、大学入学資格を取得することも可能だ。

ともあれ、中等教育以降の職業教育を見ると、学校教育と職務内容の関連性が薄い日本と制度的に異なるのがわかる。加えて、ドイツでは構造上、ニートが発生しにくいともいえるだろう。

社会的責任として企業が人材育成

ドイツではこうした職業教育を経ることで、327の職業については「職業資格」が得られる(2017年現在)。そのため、たとえば秘書の求人に応募しても、秘書の職業資格がなければ、まず書類審査で落ちる。

また職業学校に通うのは、20代前後の若者がほとんどだが、新たな職業資格を取得したいと希望する人が通うこともあり、年の離れた「クラスメイト」がいることもある。あるいはドイツで多くの難民が押し寄せたが、彼らにも職業が必要となる。しかし、たとえドイツ語を習得しても、ドイツの職業資格がないことで仕事が得にくい状況になっている。こうした点に、職業社会としてのドイツの特徴が見いだせるわけだ。

さて、新人の教育にコストがかかるのはドイツも日本も同じ。企業にとって負担であるが、職業訓練生を募集する企業は多い。毎年秋から募集がはじめられるが、ラジオなどでは広告を耳にすることがよくある。職業教育を施して自社でそのまま働くとは限らないのに、積極的なのだ。

数年前、その理由について筆者が住むドイツ中南部エアランゲン市の商工会議所の当時の所長が話してくれたことがある。それは「職業教育の負担は、企業の社会貢献」だというのだ。このときの取材のテーマはCSR(企業の社会的責任)。文化や福祉などへの取り組みの話の中で出てきたのだった。

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