アカデミー賞に「VR部門」ができる日は来るか ヴェネチア・カンヌではVR作品の上映も実施

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「そもそも『映画とVR』ということで言うと、2015年の『オデッセイ』(監督:リドリー・スコット / 主演:マット・デイモン)あたりから、本編を作る際に『同時に3Dや4D、そしてプロモーション用にVRエクスペリエンスを作る』ようになってきました。『The Mummy VR Experience』もその流れですが、IMAXと組み、しかもSXSWということで、プロモーションとしてはかなり大がかりなものになりました。

体験者はVR用にデザインされた、外側が黒く、内側が赤い、エーロ・アールニオの『ボールチェア』のようなフルモーションチェアに座り、トム・クルーズとともに飛行機に乗り、無重力状態でのパニックを疑似体験することができました」

欧州の国際映画祭はVRに積極姿勢

こうしたVRへの取り組みは、ハリウッドのスタジオだけではなく、映画祭側も積極的だと言う。

「ヴェネツィア国際映画祭では、2017年から、世界に先駆けて『VR部門』を設立しています。同じく昨年のカンヌ国際映画祭の期間中には、プラダのスポンサーのもと、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥが『Carne y Arena』というVR作品を発表しました」

アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥは、メキシコ出身の映画監督。『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(2014)でアカデミー作品賞や監督賞等を受賞し、次作『レヴェナント:蘇りし者』(2015)では、レオナルド・ディカプリオに悲願のアカデミー主演男優賞をもたらした、現在、映画界の頂点に君臨する監督のひとりである。

「『Carne y Arena』のお披露目は、カンヌからクルマで20分ほど離れた小型飛行機の格納庫で行われました。VRというと、普通はゴーグル(360°の映像)とヘッドフォン(音)だけですが、イニャリトゥによって作り出された複合的な『体験』は圧倒的でした。『Carne y Arena』の舞台は、メキシコの国境です。イニャリトゥ自身がメキシコ人ですし、トランプ政権下においては政治的でタイムリーな話題ですよね。

会場に着くと、荷物を全部預けて、靴も靴下も脱ぎ、裸足になります。手荷物や靴は指定されたボックスに入れるのですが、その脇には移民たちのバッグや靴も置いてありました。そしてけたたましいサイレンが鳴ったら、ひとりずつ中に入ります。体育館のような空間には砂が敷き詰めてあり、そこでゴーグルを装着することになります。

映像が始まると、そこはメキシコとアメリカの国境で、向こうから声がして、移民たちが歩いてきます。足元は砂ですし、風も顔にあたるので、とにかくリアルなんです。そのうち轟音とともにヘリコプターやジープがやって来ます。アメリカ側の国境警備隊です。犬を連れた彼らは、瞬く間に移民たちを制圧し、拘束していく。その一部始終が目の前で行われ、やがて夜明けとともに元の静かな国境に戻る……。時間にすると8分半ですが、ものすごい緊迫感でした。

入り口とは違う扉から出て進むと、実際の移民たちをインタビューしたビデオインスタレーションがありました。入ってから出るまで、トータルで20分程度のエクスペリエンスです」

高い評価を得た『Carne y Arena』は、映画芸術科学アカデミーが毎年11月に発表するガバナーズ賞において、「スペシャル・オスカー」を受賞する。

「『Carne y Arena』はカンヌで2週間ほどプレミアを行い、その後はミラノのプラダ財団やロサンゼルスの群立美術館を巡回し、最終的にはメキシコでも上映されました。ぜひ、日本に呼べないかと思っているのですが……」

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