ロヒンギャ難民キャンプで会ったドラえもん 過酷な環境に暮らす子どもたちの今

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両親がおらず助け合って暮らす姉妹と弟(筆者撮影)

難民の中には両親がおらず、子どもたちだけの世帯もある。18歳の少女ヌル・シャバは、14歳の弟、7歳の妹とメガキャンプで暮らす。竹を売って生活していた貧しい一家の両親は、2年ほど前に相次いで病死し、昨年8月末に村々が襲われた時、3人は助け合いながら5日間歩いて国境を越えた。「逃げる途中、たくさんの村人の死体が道端に転がっているのを見ました。私たちの家も焼かれてしまったと思います」。

母親代わりのヌルは朝5時に起きて少量のコメを炊き、豆カレーを煮て3人で分け合う。弟と妹は仮設教室に通うが、ヌルは歩いて20分ほどの配給所に並んでコメや食用油を受け取ったり、井戸端で洗濯したりという単調な日々である。キャンプに野菜や卵、干し魚などを売る店もあるが「おカネを持っていないので何も買えません。近くにいる叔母が時々、魚カレーを持ってきてくれるのが唯一のご馳走です」。

女性や子どもの人身売買のうわさが絶えない

そんなヌルにミャンマーに帰りたいか尋ねると、少し考えて「帰りたくありません。キャンプの生活は大変ですが、ここでは誰かにいじめられる心配がなく、夜も安心して眠れますから」と答えた。

国際社会の全面支援を受けているものの、難民キャンプの厳しい状況は変わらない。キャンプ内では昨年12月から年明けにかけて、急性感染症のジフテリアが蔓延し、子どもなど少なくとも37人が死亡した。

国連の支援でバングラデシュ政府が大規模な予防接種を実施し、現在ほぼ終息しているが、医療系NGOの医師は「開発途上国でも子どもの予防接種が普及した今日、ジフテリアの感染は世界的に珍しく、私たちも治療した経験がほとんどない。ミャンマー国内でロヒンギャが公的な保健サービスにアクセスできていなかった証拠だろう」と指摘する。

無数に出入りがある広大な迷路のようなキャンプでは、若い女性や子どもを誘拐する人身売買のうわさが絶えず、特に初期には行方不明になる子どもがいたようだ。キャンプ内で女の子に道案内を頼んだら、“人さらい”とでも思われたか、しばらく母親が後をついてきたこともある。

イスラム特有の保守的な考え方もあるのだろうが、ある時、顔見知りになったイスラム教師の男性に「家族全員そろった写真を撮らせてほしい」と頼んだところ、「娘たちを人前に出したくないなあ」と渋った。やっと了承して男性が家族に外に出るよう命じると、粗末なテントの奥から目を見張るような美人3姉妹が現れ、「父親が外に出すのを嫌がるわけだ」と納得した。

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