ロヒンギャ難民キャンプで会ったドラえもん 過酷な環境に暮らす子どもたちの今
その一方で、虐げられた被害者としてのみ伝えられるロヒンギャの人々が、日常生活で明るい表情を見せる瞬間が実は結構ある。特に子どもたちは元気でかわいらしく、難民キャンプという特殊空間での非日常的な“お祭り騒ぎ”を楽しんでいるようにさえ見える。もちろん「子どもたちに絵を描かせたら虐殺の場面を描いた。心のケアが必要だ」といった話は紛れもない事実なのだが、そういう側面ばかりでは必ずしもない。
60万人余りが密集する通称“メガキャンプ”をはじめとする難民キャンプには、小学校相当のラーニング・センター(仮設教室)約700カ所に加え、先述したフレンドリー・スペース、女性を対象とした教室、モスクに併設されたマドラサなどさまざまな“学校”が、ざっと2000以上はあるだろう。ロヒンギャ難民の6割、約600万人が子ども(18歳未満)とされ、乳幼児を除いた相当数が何らかの教育活動にアクセスしている。
青空教室でコーランを唱和する姿も
ラーニング・センターではミャンマー語、英語、算数などを教え、マドラサはアラビア語によるコーランの暗唱が主である。ロヒンギャの言葉はベンガル語の一方言なのだが、バングラデシュの国語であるベンガル語を教えることは「難民の定住を促進することになる」としてバングラデシュ政府が認めていない。
子どもたちはUNICEFの青いランドセルがうれしくてならないらしく、肌身離さず背負っている子もいる。マドラサの青空教室では、幼いながら男女がきっちり分かれてゴザに座り、大声でコーランを読み上げる微笑ましい光景が見られる。
流入初期の大混乱を経て、国連世界食糧計画(WFP)による食糧供給など配給システムが整備された現在、難民のニーズが高いのは安全な給水と清潔なトイレ、それに料理用のまきである。
折から渇水期でもあり、国連やNGOが新設した井戸や簡易給水システムには難民が殺到しているが、水汲みは子どもたち、それも主に女の子の仕事らしい。少女たちはアルミ製の水がめやバケツに水を満たし、高低差のある小道を裸足で黙々と上り下りする。幼い弟や妹がペットボトルを持って後を追う。
朝晩の煮炊きに用いるまきは1束数十円見当で売っているが、現金を持たない多くの家族はまき集めが欠かせず、そこでも子どもたちが活躍する。大きな木の束を担いだ12歳の少年は「両親と兄弟姉妹9人の家族11人分のまきがいるので、朝7時に少し離れた山まで行って午前中いっぱい刈り集め、丘の上のテントまで運ぶんだ。午後はラーニング・センターがあるので、ミャンマーにいた頃のように友達とサッカーをする暇なんかないよ」。すでに家族を支えるいっぱしの大人の表情をしている。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら