自給率ほぼ0%、「国産綿花」再興への道のり 今後、注目すべき地方の新たな産業になるか

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コットンは塩害に強く、放射性物質が土中から作物に吸収される割合を示す「移行係数」が低いとされています。東日本大震災で被害を受けた農地でも綿花栽培が行われており、福島県では風評被害によって食物の栽培を断念する農家の増加を受けて『ふくしまオーガニックコットン・プロジェクト』が立ち上がりました。

「会津木綿」という言葉があるように、もともと福島は繊維業が盛んな街。そのDNAを蘇らせ、地域に活気と雇用を生み出すことがプロジェクトの目的です。

『マインド熊本』と同じように多くの協力が寄せられており、参加したボランティアの数はこれまでに2万人以上。地元をはじめとした市民の方たちはもちろん、CSRや教育機関の活動に組み込まれる機会も増えています。2015年には、「グッドライフアワード」の環境大臣賞優秀賞を受賞。初年度に100kgだった収穫量は、2016年度には1tを超えました。

農地再生の選択肢に

原発事故などの外部要因、農業者人口の減少、農家の後継者不足といった背景から、耕作が放棄されている農地は日本各地にあります。作物の栽培が不可能になっている「荒廃農地」は約28.1万ヘクタール。その中で、抜根や整地、客土などによって再利用できる農地は約9.8万ヘクタール(980平方キロメートル)を占めています(2016年度 農林水産省調べ)。

今後、眠っている農地を再生させていくならば、食物だけでなく、和綿という選択肢もあっていいのではないでしょうか。夏には湿気を吸い、冬には空気を含んで温かくなるように、和綿は日本の気候に適した繊維。衣類だけでなく、布団の中綿としても適しています。明治時代の技術では短い繊維をうまく紡績できませんでしたが、今の技術であれば対応は可能です。

『マインド熊本』の工場内の様子(筆者撮影)

食物のように口で味わえるキャッチーさはないため、地方の名産になるまでは時間がかかるかもしれません。

しかし、1つのプロジェクトに多くの方たちが長期的に携わることは、産業としての定着を図るという視点から見るとプラスです。

『マインド熊本』の取り組みは、「熊本朝日放送」の番組でもピックアップされたように、地元はもちろん、県としての応援が後押しになっています。このプロジェクトが和綿再興のロールモデルになることを、アパレル業界に関わる人間として、そして熊本で生まれ育った人間として願って止みません。

山田 敏夫 ファクトリエ代表

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やまだ としお / Toshio Yamada

1982年熊本県生まれ。大学在学中、フランスへ留学し、グッチ・パリ店で勤務。卒業後、ソフトバンク・ヒューマンキャピタル株式会社へ入社。2010年に東京ガールズコレクションの公式通販サイトを運営する株式会社ファッションウォーカー(現:株式会社ファッション・コ・ラボ)へ転職し、社長直轄の事業開発部にて、最先端のファッションビジネスを経験。2012年、ライフスタイルアクセント株式会社を設立。2014年中小企業基盤整備機構と日経BP社との連携事業「新ジャパンメイド企画」審査員に就任。2015年経済産業省「平成26年度製造基盤技術実態等調査事業(我が国繊維産地企業の商品開発・販路開拓の在り方に関する調査事業)」を受託。年間訪れるモノづくりの現場は100を超える。

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