スーパースター企業を生み出す無形資産投資 寡占化や格差の拡大への社会的対策も必要だ

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しかし、研究・開発投資では投資が実を結ぶかどうかは極めて不確実で、使用した費用を資産というには心もとない。たとえば新薬の開発には10年以上もの年月と数百億円といった多額の費用がかかるとされる。候補となった物質が薬となる確率は数万分の一といわれており、新薬開発の投資の途中では、この投資価値は非常に大きなものになる可能性もあるものの、むしろ最終的にゼロになってしまう可能性のほうが高く、評価は難しい。無形資産への投資も実物資産への投資と同じように、将来の生産に役立つはずだと考えられて、行われているのだが、どれだけ役立つのかの予測はゼロから非常に大きな利益まで著しく幅が広い。

無形資産は価値評価が難しい上に、現在は価値があるものでも状況が変われば無価値になるかも知れないという不安定さもある。非常に利益率の高い新薬に副作用が見つかり生産中止に追い込まれてしまったり、より優れた技術が発明されて特許の価値が大きく低下したりすることも起きる。

このため、無形資産への投資を行おうとしている企業が外部から資金調達を行うことは、建物や工場設備のような資産への投資を行うための資金調達を行うことに比べてはるかに難しい。

マクドナルドの創業者も気づかなかった問題

2016年に米国で話題となった、映画『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』は、ハンバーガーチェーンのマクドナルドを世界的企業に育てたレイ・クロックの物語だが、これを見ると、マクドナルド兄弟が作り上げた店内作業のノウハウが大きな価値を持っていたのに、チェーンを拡大するための資金は店舗の土地や建物という実物を担保にした借り入れで調達している。本当に価値のあったのは無形資産であるノウハウだが、土地や建物、機械設備に比べると、担保として利用するには不向きで、有形の固定資産を担保にして金融機関からの借り入れを行うしかなかったわけだ。

余談だが、映画の最後のほうでは経営権を売り渡したマクドナルド兄弟が別のハンバーガー店を開店するが、店名も売り渡したためにマクドナルドという名前が使えず事業に失敗してしまったという話が出てくる。レイ・クロックがインタビューで、最も価値があったのは店舗運営のノウハウではなくマクドナルドという名前だったと語る場面が出てきたと記憶しているが、店名が非常に大きな価値をもっていたとはほとんどの人は気が付かなかっただろう。

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