ニワトリの頭を手で切る9歳少年の「食事情」 追われる難民たちの「とてつもない食」

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配給されたコメに具などない色の薄い汁をかけ、ひたすら食べていた(写真:木村聡)

困難な状況でも難民たちは食べていた。ここでは衣食住の中でとりわけ食につながる行動が目立つ。いや、うごめく人間たちが注力し、繰り広げる風景とはほぼそれしかない。

実はあっちでもこっちでも、難民の女性たちは地べたに作ったカマドで煮炊きしていた。卵を茹でたり、魚を揚げたり、何かの葉っぱを煮たり、さらには絞めた鶏を焼いたり。

「コメが欲しい」

今いちばん望むことを祖母は即答した。そして、何をいまさらという顔をして続ける。

「食べなければ生きていけない。食べることが生きることでしょ」

しかしながら、難民たちを支えるその“生命線”はあまりに脆弱だ。ゆえもない。8月以降、ミャンマーから流入した難民は60万人を超えた。突然これだけの人間たちを養う食料など、バングラデシュの国境地帯に用意されているはずもなかった。なんの生産手段も持たない難民の胃袋は、いま国際機関や国内外のNGOによる援助に頼らざるをえない。現地の国連関係者は話す。

「難民が膨れ上がって登録作業が進まず、どれだけ食料が必要なのか把握できない。ただ、足りないというのは確かだ」

難民の大量発生直後から国連世界食糧計画(WFP)によるコメの配給は始まり、豆や食用油もキャンプに運ばれるようにはなった。しかし、数カ月経過しても難民流入はやまず、緊急食料として配られるビスケット数枚で何日も空腹をしのぐ難民もいまだ少なくない。

国連の人道問題担当者は10月に難民キャンプに入り、「食料、避難所、飲料水などが不足している」と国際社会の迅速な対応を求めた。ユニセフも、国境なき医師団も、赤十字も、どの機関もこぞって支援拡大を訴え続ける。裏を返せば、逼迫した食料不足が解消せずに慢性化していることにほかならない。

失わなくてもいい命が失われる場所

バングラデシュには2016年からすでに数十万人のロヒンギャ難民が避難していたが、今回さらに多くの難民が加わった格好だ。隣り合う「クトゥパロン」と「バルカリ」という既存の難民キャンプはそれぞれが膨張を続け、もはや境目がないほど。ごく狭いエリアに60万人以上の難民が集まるキャンプなど、これまで世界のどこにもない。

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