ニワトリの頭を手で切る9歳少年の「食事情」 追われる難民たちの「とてつもない食」

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「私たちがミャンマーで食べていたもの。ここではちゃんと作れませんが、郷土の味なんです」

娘が混ぜる鍋を覗き見ながらサヒールさんは話す。家じゅうが刺激臭でむせ返った。

軋轢を生む宗教、民族、胃袋

ロヒンギャ難民が仮設テントの自宅で”民族の味”を作っていた(写真:木村聡)

現在、難民たちは収容所外へ自由に移動することはできない。バングラデシュ軍などが厳しい検問を行って、難民をキャンプ周辺に封じ込めているからだ。

ただでさえ貧しく、人口過密問題を抱えるバングラデシュは難民の受け入れに消極的である。地域住民の人口よりはるかに多く膨れ上がった難民は地元経済を圧迫し、バングラデシュ政府は治安悪化とテロの懸念もあると主張する。国内有数の観光地コックスバザールから遠ざけ、彼らを無人島へ移住させる隔離計画も進む。

「ここは小さな国です。私たちだって食べるのに大変なのに、ロヒンギャを助けるなんて不可能。早く帰ってほしい」

バングラデシュ人の農民が話す。向けた視線の先には稲の刈り取りが終わった水田。そこはすっかり踏み固められ、急ごしらえの難民の住居が造られていた。

国立公園の森を切り拓き、水田を埋め、巨大難民キャンプは日々膨張している(写真:木村聡)

避難先との軋轢に加え、難民たちの間でもトラブルは表面化している。点在する難民キャンプは統合される方向だが、イスラム教徒のサヒールさんは他教徒の難民が混ざることに嫌悪感を示す。

「奴らとは一緒にはなれない。食べるものが違うから」

宗教や民族の対立、国家の都合で生じた難民。どこにも受け入れられず行き場もなく、飢え封じ込まれた胃袋はもはや全体で100万に迫る勢いだ。

木村 聡 写真家、フォトジャーナリスト

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きむら さとる / Satoru Kimura

1965年、東京都生まれ。新聞社勤務後、1994年からフリーランス。国内外のドキュメンタリー取材を中心に活動。ベトナム、西アフリカ、東欧などの海外、および日本各地の漁師や、調味料職人の仕事場といった「食の現場」の取材も多数。写真展、講演、媒体発表など随時。

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