加熱式たばこ「IQOS」有害物質9割減は本当か 自社と第三者の研究結果に見える隔たり

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特にWHOが発がん性物質に指定するホルムアルデヒドは、PMIの研究結果では9割以上減っていた一方、スイスの研究では26%しか減っていなかった。

これに対し、PMI日本法人の担当者は「第三者機関の検証は歓迎するが、スイスの研究は詳細な実験方法がわからないのでコメントできない」と話す。

PMIがアイコスとの比較対象にしたのは、WHOなどがこうした実験に用いる「標準たばこ」と呼ばれるもの。対してスイスの研究チームでは、一般に出回っているブリティッシュ・アメリカン・タバコ社の「ラッキーストライク」の銘柄の1つを比較対象にしているなど、実験方法は多少異なっている。

加熱式たばこだけの健康影響を測ることは難しい

PMIは、加熱式たばこをハームリダクション製品(健康リスクを低減する可能性がある製品)と位置づけている。紙巻きたばこを吸い続けるよりも、加熱式たばこに切り替えたほうが健康へのリスクが低いかもしれない、という考え方だ。

大阪府立成人病センターで調査部長を務めた大島明氏は、「健康のためには紙巻き、加熱式ともやめるのが理想。だが、紙巻きたばこをやめられない人にとって加熱式たばこは“まだまし”な代替品になる」と話す。

一方、日本呼吸器学会はこのハームリダクションの考え方について、「有害物質の量がどこまで低減されれば健康被害の低減につながるのか、科学的根拠はない」と反論する見解を示している。

PMIによれば、アイコス利用者のほとんどが紙巻きたばこからの切り替えだ。しかし、アイコスと紙巻きたばこの併用者も依然として多い。アイコス利用者が1日に吸うたばこの本数の3割ほどは、まだ紙巻きたばこだという。そのため、加熱式たばこだけの健康影響を測ることは難しい。

たばこ業界に詳しいジャーナリストの石田雅彦氏は、「紙巻きたばこでも健康への影響がわかるデータがそろうまで20~30年かかった。加熱式たばこを論じるにはまだ研究が足りない」と話す。

たばこメーカーがうたう「有害物質9割減」を信じて良いか。有害物質削減で健康影響はどれだけ減るのか。検証にはまだ時間がかかりそうだ。

週刊東洋経済1月9日発売号(1月13日号)の特集は「間違いだらけの健康常識」です。
石阪 友貴 東洋経済 記者

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いしざか ともき / Tomoki Ishizaka

早稲田大学政治経済学部卒。2017年に東洋経済新報社入社。食品・飲料業界を担当しジャパニーズウイスキー、加熱式たばこなどを取材。2019年から製薬業界をカバーし「コロナ医療」「製薬大リストラ」「医療テックベンチャー」などの特集を担当。現在は半導体業界を取材中。バイクとボートレース 、深夜ラジオが好き。

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