「あの人にしかできない」が会社をダメにする ベテラン社員の「抱え込み」を放置するな

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C社経営者はすぐに社内にある「〇〇さんにしかできない仕事」を洗い出し、改善を行うことにしました。

[C社が行った改善の結果]

(1)倉庫や工場の整理と整頓を徹底した結果、部品や部材、製品などがどこに何個あるのかが誰にでもわかるようになった。部品などを用意する時間も大幅に短縮されただけでなく、ムダな在庫がなくなったことで利益率も改善。倉庫専門の社員がいなくても仕事が進むようになった。

(2)機械設備の調整が難しかったのは勘と経験に頼る仕事をしていたから。すべての機械設備の改善を徹底して行うことでほとんど調整なしに操作できるようになり、金型などの交換もほとんどワンタッチで行えるようになった。機械設備はベテラン依存の「難しい」ものから、一般の社員でも操作できる「やさしい」ものへと変わった。

(3)作業環境の改善を図り重いものには補助具をつけることで力のない人でも扱えるようになり、暗いところは明るくすることで年配の人でも苦労せずに仕事ができるようになった。動かすムダ、運ぶムダを改善したことで仕事のほとんどは力のない人でもできるものに変わった

こうした改善を重ねたことで、C社の現場からは「〇〇さんにしかできない仕事」はほとんどなくなり、誰にでもできるものになりました。それまで「自分しかできない」を誇りにしていたベテラン社員にとってそれは仕事を奪われるような改革でしたが、C社経営者は生産改革の必要性を説くことで彼らの理解と納得を得ることができました。

「簡単なものを難しくしているだけ」かもしれない

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仕事の中には確かに卓越した専門知識が必要なものもあり、こうした仕事は「〇〇さんにしかできない」ものかもしれませんが、それ以外のものは単に「簡単なものを難しくしているだけ」かもしれません。

仕事は「〇〇さんにしかできない」が多ければ多いほど、そこがボトルネックになり、全体の流れを妨げ、生産性を低下させることになります。当然、「〇〇さん」にとっても簡単には休むことができないといったデメリットがあります。

だからこそ「〇〇さんにしかできない仕事」を改善によってなくしていくことが大切なのです。仕事をするとき、あるいは誰かの仕事を見るとき、漠然と見るのではなく、「どうしてこんな動きをするのだろう?」「なぜこれが必要なのか?」と、「なぜ」を繰り返しながら見ると、いろいろな疑問が出てくるはずです。そこに課題があり、改善のヒントがあるのです。

桑原 晃弥 経済・経営ジャーナリスト

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くわばら てるや / Teruya Kuwabara

1956年広島県生まれ。慶応義塾大学卒。業界紙記者を経てフリージャーナリストとして独立。トヨタ式の普及で世界的に知られたカルマン株式会社の顧問となって、トヨタ式の実践現場や大野耐一直系のトヨタマンたちを幅広く取材、トヨタ式の書籍やテキストなどの制作を幅広く主導した。一方、業界を問わず幅広い取材経験を持ち、企業風土や働き方、人材育成から投資まで、鋭い論旨を展開することで定評がある。『トヨタ 最強の時間術』(PHP研究所)、『伝説の7大投資家』(角川新書)など著書多数。

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