11月度の「月間エンタメ大賞」は、今年8月発売の大ヒット書籍『漫画 君たちはどう生きるか』(マガジンハウス)を取り上げたい。
その「大ヒット」がどれほどのものかというと、マガジンハウス社によれば、11月末時点で発行部数80万部。2016年の売り上げ1位(日販・トーハン)となった石原慎太郎『天才』(幻冬舎)の部数は92万部だったが、これは2016年の1月発売。比べて、「8月発売で80万部」という売れ行きのすごさが分かろうというものだ。
さらに驚くべきは、この本の基となった、吉野源三郎著『君たちはどう生きるか』(新潮社)の発刊は、何と80年前の1937年。また、本の内容も、主人公「コペル君」に「おじさん」が人としての生き方を指南するという、いたって真面目で硬派なものである。
そんな「古く」「真面目」な本が、この書籍不況・書店数減少が叫ばれる中で、いかにして爆発的なヒットとなったのかを、主に生活者=買い手・読み手の視点から分析してみたいと思う。
「教養のポップ化」という背景
今回の大ヒットの第一義的な要因は、漫画化というアイデアである。いくら子ども向けに書かれたとは言え、80年前の本を、そのまま読ませることのハードルは高い。そこで、原典の内容を少し削ったうえで、漫画化することで、読むハードルを下げ、「昔の名著が簡単に読める」というベネフィットを付与したことが、まず大きかった。
この構造を下支えするのが、「教養のポップ化」とでもいうべき生活者トレンドである。言い換えれば「肩肘張らない形で、楽しみながら教養を得たい」という感覚。
書籍市場で言えば、「ネオ書店」とでも言うべき、蔦屋書店やヴィレッジヴァンガードなどが、そのトレンドに応えている。ライフスタイルやカルチャーなど、顧客の興味関心領域の文脈で本を位置づけ、気軽でおしゃれな形で、本を手に取らせる工夫がなされた店舗群である。
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