日銀券が強制通用力を失うと何が起きるのか 読み切り小説:法定デジタル通貨

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「ミヤさんはいいですよね。円でたっぷり儲けて海外移住ですか」

「おまえもそこそこ儲けたじゃないか」

「とんでもない。元手が小さいから微々たるもんです。元手がミヤさんの1000分の1だから儲けも1000分の1。車を買ったらなくなるくらいのカネですよ」

「そこそこいい車が買えるだろう。いいじゃないか」

「銀ちゃんに比べたって100分の1くらいでしょう。一緒に企画したのに、あまりに不公平じゃないですか」

「しようがないだろう。投資とはそういうものだ。それに一緒に企画したというが、円が値上がりする可能性を言ったのは私だし、円を買い上げようと言ったのも私だ。おまえが何を企画したんだ」

キンゾーは言葉を返せず目を伏せた。宮崎は、言いすぎたか、と思いながらキンゾーの肩をぽんぽんと2度たたき、口調を和らげて言った。

「すまんがもう空港に行かなくてはならない。私が留守のあいだのことはキンゾーに任せるよ。円はまもなく売り時だが、もうひと稼ぎくらいはできるだろう。私は昔の経験で今回のことを企画し、それで儲けたが、おまえは私のまねをする必要はない。おまえはおまえの経験を生かして円を増やす方法を考えればいい」

キンゾーは顔を伏せたままだったが、宮崎はもう一度キンゾーの肩をたたいて店を出た。

宮崎は1カ月間国外を巡った。インターネットを使わない彼は、その間一度も相場を見なかった。

1カ月のあいだに起きたこと

それから1カ月後、帰国した宮崎はその足でリスクラバーへ向かった。

店に入っていくと、いつもの自分の席に銀ちゃんが座っていた。

「そこは私の席なんだがな」

と銀ちゃんの背中に言うと、銀ちゃんは頭を掻きながら席を譲った。

「私がいないあいだ、どうだった」

と訊くと、銀ちゃんは、

「価格変動が激しすぎて円の使用を受け付けないところが増えているようです」

「そうか。それはまずいな。それで価格はどうだ」

「ほとんど上がっていません。この1週間に限っていえば、むしろ下がっています」

「出掛ける前、キンゾーに留守のあいだは任すと言ったんだが、なにもできなかったということか」

「キンゾーには無理でしょう。僕はここ1カ月、やつの顔をまったく見ていませんよ」

「なにをやっているんだ。あいつは」

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