「副業解禁」を一括りに論じてはいけない理由 生活補助と小遣い稼ぎでは意味が全然違う

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ただ、合法的に賃金が支払われても、地方ではまだまだ最低賃金が低く、法律どおり賃金が支払われても生活が苦しいという現状がある。

たとえば沖縄県の場合、最低賃金は737円である。1日8時間、月20日働いても総支給額で11万7920円にしかならない。ここから社会保険料や税金を天引きしたら、手取りは10万円程度である。

1人暮らしなら辛うじて何とかなるかもしれないが、家族を扶養している場合はダブルワークをしなければ厳しいと言わざるをえない。

では法改正をして最低賃金を一気に引き上げれば良いのかというと、事業主側の経営体力の問題もあるので、そう簡単にはいかないだろう。

その他にも、「会社の業績不振で大幅に収入が下がったので、住宅ローンや子の学費のために副業をしている」とか、「フリーターをしているが、まとまったシフトに入れないので、複数のバイト先を掛け持ちしなければならず、副業というよりもどこが本業か分からない」など、私が見聞きした限りでも、さまざまな背景による生活苦型副業があるようだ。

社員が違法な副業を行っていないか

(2)小遣い稼ぎ型副業

「小遣い稼ぎ型副業」は、本業で生活に必要な収入は得られているが、余暇や趣味に使うプラスアルファのおカネ、あるいは資産形成などを目指して、自分のペースで行う副業である。具体的には、アフィリエイト、本の「せどり」、ネットワークビジネスなどが代表例である。

基本的に本人が好きでやっていることなので、本人自身が苦になることはないだろうが、企業側には注意点がある。それは、就業規則の整備だ。

社員が業務時間外に何をやっても原則自由だが、インターネット上には怪しげなビジネスも少なくない。社員が法に触れるような副業に手を出したり、法に触れるとまでは言わずとも、同僚に対してネットワークビジネスの勧誘を行ったりして社内秩序を乱すというトラブルもしばしば発生している。

また、2012年には京都府警の警部補がインターネット上でアダルトサイトを運営していたことが発覚し、減給処分を受けたが、本人の依願退職で幕引きとなったという事件も発生している。本人はこのサイトから約750万円の副収入を得ていたということだ。公務員は副業が禁止されているので妥当な処分だが、民間企業であっても、このようなケースは会社の信用や品位に傷を付けかねず、発覚した場合は懲戒の対象となりうる。

企業側としては、就業規則で違法な副業や会社の信頼を失墜させる副業を行うことの禁止を明示して注意喚起するとともに、社内でネットワークビジネスの勧誘等も禁止しておく必要があるかもしれない。

もちろん就業規則に書くだけでは周知徹底されないし、知らず知らずのうちに違法な副業に手を出してしまうこともありうる。社員研修を行ってマルチなど違法な副業の例を具体的に説明するとか、社員が行っている副業の内容を会社に報告させたりすることは会社の人事権の範囲だ。「小遣い稼ぎ型副業」に限ったことではないが、副業を就業規則で届出制にして、社員が違法な副業を行っていないか常時チェックをしていくことも必要であろう。

(3)やりたいこと型副業

「やりたいこと型副業」は、「生きがい」「やりがい」といった、社会貢献や自己実現に重きを置くタイプの副業である。話すことが好きなのでセミナー講師をするとか、英語が得意なのでクラウドソーシングで翻訳の仕事を引き受けるといったような形の副業が挙げられる。また、町内会の祭りの事務局をすることや、地域の子供たちのスポーツチームの監督を引き受けることなども、無償であったとしても、一種の副業としてここに含まれるであろう。

これも本人はやりたくてやっているものの、企業側には留意点がある。休日出勤や残業などの強要だ。

本業をないがしろにして副業にのめり込んでいる場合は別だが、本業と副業を一生懸命両立させようとしている社員の腰を折ると、大幅にモチベーションが下がったり、場合によっては会社に恨みを持ったりする。

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