同じ距離で違う金額「特急料金」は明朗会計か 数多くの特例、消費者に対する説明は十分?

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しかし、営業キロ区分の特急料金表を公開しないことについて問題はないのだろうか。

鉄道事業法上、在来線特急料金は届け出制であるため鉄道事業者の裁量で料金を決定できるのに対して、新幹線特急料金は国による認可制となっている。新幹線特急料金について、国土交通省関東運輸局鉄道部監理課の担当者は「新幹線特急料金は駅間ごとの料金表により認可されている。ただし、運輸審議会における北海道新幹線などの料金認可の審議において、営業キロ区分の特急料金表が参考資料として添付されている」と話す。

たとえば、運輸審議会「諮問関係事案の審議状況 (平成27年)」に掲載されている【北海道旅客鉄道株式会社からの鉄道の特別急行料金の上限設定認可申請事案】「第01回 重要認定 平成27年10月15日 配付資料 事案一覧表」では「(参考)既存の特急料金水準との比較」として、北海道新幹線の予定特急料金と比較する形式で、東北新幹線の特急料金が100kmまで1840円、200kmまで2590円であることが記載されている。

新幹線の特急料金は駅間ごとに決めているとはいっても、営業キロによって区分した特急料金表も存在することになる。

特急料金は「明朗会計」か

近年では、JR常磐線特急の全車指定席化により、自由席特急料金や、通勤客などに利用されていた「定期券用月間料金券(特急定期)」および「フレッシュひたち回数券」が廃止され、沿線自治体および消費者から大きな反発が起きたことは記憶に新しい(沿線人口にも影響?特急料金値上げの波紋)。こうした不利益変更は指定席と自由席の料金差があるJRで発生しやすく、私鉄で起きる可能性は低い。しかしそうはいっても、特急料金・座席料金に関して消費者にとっての不利益変更が容易な現行制度は、改善の余地が大きい。

このように、現状では鉄道の特急料金の設定根拠に関する十分な説明が行われているとは言いがたい。消費者に安心して商品・サービスを購入してもらううえで重要な視点の1つに「明朗会計」があるが、鉄道事業者で徹底されているとはいえない現状には問題がある。JR各社・大手私鉄は、特急料金・座席料金の根拠を丁寧に説明する必要がある。

鉄道事業者の裁量や都合で自由に設定・変更ができる特急料金については、事業者の健全経営を担保しつつ、消費者保護に向けた制度の必要性についても検討を深める必要があるのではないだろうか。

大塚 良治 江戸川大学准教授

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おおつか りょうじ / Ryouji Ohtsuka

1974年生まれ。博士(経営学)。総合旅行業務取扱管理者試験、運行管理者試験(旅客)(貨物)、インバウンド実務主任者認定試験合格。広島国際大学講師等を経て現職。明治大学兼任講師、および東京成徳大学非常勤講師を兼務。特定非営利活動法人四日市の交通と街づくりを考える会創設メンバーとして、近鉄(現・四日市あすなろう鉄道)内部・ 八王子線の存続案の策定と行政への意見書提出を経験し、現在は専務理事。著書に『「通勤ライナー」 はなぜ乗客にも鉄道会社にも得なのか』(東京堂出版)。

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