「生活保護バッシング」がやまない本質的理由 「陽のあたる家」さいきまこさんに聞く

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――作品を発表されて、世間の反応はいかがでしたか? 作品を読まずに「生活保護を肯定するなんて」とたたいてくる人もいるのでは。

読んでくださった人は「自分もいつ受給するかもしれないと、身につまされた」「制度を誤解していた」という感想を寄せてくださっています。でも、読まずにたたく人も残念ながら多いですね。それから、「私が知っている生活保護受給者は、こんなに心がまっすぐじゃない」という反応もありました。

さいきまこ●編集者やライターを経て、2000年に『YOU』で漫画家デビュー。2014年『陽のあたる家〜生活保護に支えられて〜』が貧困ジャーナリズム大賞の特別賞を受賞。2017年10月、新刊『助け合いたい~老後破綻の親、過労死ラインの子~』発売。
(撮影:尾形文繁)

でもよく聞いてみると、誤解や勘違いがすごく多いんです。たとえば「近所にブランドもので着飾った受給者がいる」という。でも、それが本物のブランド品だという確証があるわけではないんです。その人が本当に生活保護を受給しているのか、それすらあいまいだったりもします。

「ベンツに乗っている受給者がいる」という話も耳にしますが、これはもう都市伝説といっていい。そもそも生活保護では、車の保有を原則として認めていません。このことは、困窮している人の生活保護受給や自立生活を妨げるとして、問題視されているほどです。本来は、公共交通機関の利用が著しく困難な地域で、通勤や通院に必要な場合など、保有が認められるケースがあるのですが、実際にはなかなか認められない。生活の足となっている古い軽自動車を、受給のために泣く泣く手放すのが現実です。この現状で「ベンツうんぬん」という話は、笑止というほかありません。

それから3年前、朝の情報番組で「裕福な実家で生活保護を受給しているシングルマザーがいる」という投書が読み上げられていましたが、それもありえないことです。受給の決定には、徹底した資産調査が行われます。そもそも、その家庭が本当に裕福かどうか、外から見ただけではわからないものです。受給しているのが児童扶養手当(ひとり親家庭に支給されるおカネ)なのに、それと混同されているケースもあります。

――そうした間違った情報に接した人が、「こんなズルい不正受給者がいるんだって」と話を拡散して、誤解を広めてしまうんですね。

そうですね。世間では、生活保護受給者の大半が不正受給をしているかのようにいわれますが、実際の不正受給の額は、全体の0.45%にすぎません。

それから、「不正」のイメージ。裕福なのに偽装工作して受給する、などをイメージする人が多いようです。ですが、さきほども説明したように、受給に至るには厳しい資産調査がありますので、そういうケースはほとんどありません。

不正受給の多くは、年金や、働いて得た収入などを申告しなかった、というものです。生活保護は、収入があれば、その金額の分が保護費から減額される仕組みです。けれど申告しないと、その金額分も支給されてしまいます。これが「不正受給」となるのです。

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