テスラを「破壊的な革新者」と見るのは早計だ 「イノベーションのジレンマ」著者が語る本質

拡大
縮小
テスラはEV時代の旗手となるか
企業経営論の名著として知られる『イノベーションのジレンマ』。既存の優良企業ほど、それまでの成功体験が足かせとなり、革新的なイノベーションを生み出しにくいという「ジレンマ」を説いたベストセラーである。
その著者である米ハーバード・ビジネススクールのクレイトン・M・クリステンセン教授は、ガソリン車で世界的な成功を手にした日本の自動車産業が、電気自動車(EV)時代に陥りかねないジレンマについて警鐘を鳴らしている。『週刊東洋経済』10月21日号(バックナンバー)の特集「EVショック」で取り上げたEVと破壊的イノベーションとの関係について聞いた。

日本の長期低迷の要因はジレンマにあり

――そもそもイノベーションのジレンマとは?

まず伝えたいのは、イノベーションには「持続的イノベーション」と「破壊的イノベーション」があるということだ。持続的イノベーションは、従来の自社の優れた製品を改良すること。これも重要だが、顧客は既存の製品を買い替えるだけなので、大きな成長にはつながりにくい。一方、破壊的イノベーションとは、富裕層のみが買えた複雑で高価な製品を一変させることだ。その結果、価格が大幅に下がり、多くの人が製品を買えるようになる。

破壊的イノベーションは新たな顧客層を開拓し、将来的な収益拡大にもつながる。一方で従来の顧客層に受けず、当面は儲けが減るため、優良企業にとって、そうした製品の開発は至難の業だ。これが「イノベーターのジレンマ」である(注:原書の題名も『イノベーターのジレンマ』)。よりよい製品を顧客に提供しつつ、破壊的イノベーションを起こすには、別組織をつくって開発するしかない。

『週刊東洋経済』10月21日号(バックナンバー)の特集は「日本経済の試練 EVショック」では、日本経済を一変しかねないEV(電気自動車)の威力を徹底検証した。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

かつて破壊的イノベーションで発展した日本経済が1990年以降、長期低迷しているのは、このジレンマに陥っているからだ。韓国企業によって破壊された(半導体などの)電子製品や家電など、日本企業が「イノベーターのジレンマ」に陥った例を挙げたらきりがない。ここ数十年間で日本の破壊的イノベーションといえるのは、任天堂の家庭用ゲーム機「Wii」など、わずかしかない。

自動車産業でも、かつて韓国の起亜自動車がシンプルなガソリン車で下位市場に参入。そして今、中国企業がEVの下位市場を開拓し、次の破壊的イノベーションを起こそうとしている。そうした中、トヨタをはじめ日本の自動車産業は成長していない。いや、自ら縮小する道を選んでいると言っていい。成長は、中国やブラジルなど、日本以外の国々のEV市場から生まれる。

次ページ破壊的イノベーションを起こすには
関連記事
トピックボードAD
自動車最前線の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT