テスラを「破壊的な革新者」と見るのは早計だ 「イノベーションのジレンマ」著者が語る本質

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――EVは破壊的イノベーションとなるのか?

20年前に上梓した著書では、EVを将来の破壊的イノベーションとして論じたが、テクノロジーそのものが「破壊的」「持続的」というわけではない。EVをどのような形で市場に投入するかが破壊的かどうかを決める。

クレイトン・M・クリステンセン(Clayton M.Christensen) /ハーバード・ビジネススクール教授。米ボストン コンサルティング グループなどを経て現職。「最も影響力のある経営思想家トップ50」の1位に2度選出。近著に『ジョブ理論—イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』(共著)

好例が米テスラだ。テスラは破壊的イノベーションなどではない。彼らが狙っている市場は、カリフォルニアの高速道路を走るような(高価で高性能の)車だ。EVは新市場ではあるが、あくまで既存の製品を改良し、高価格で富裕層に提供しており、独メルセデス・ベンツなど世界大手メーカーに真っ向から挑んでいる。その意味では持続的イノベーションだ。

破壊的イノベーションを起こすには下位市場に参入し、これまで車を買えなかったような層に安価な製品を提供する必要がある。

たとえば北京では、15台に1台がEVだ。非常にシンプルな製品で、フロントシートは1人乗り。細い通りでも走れるよう車幅が狭い。スチールでなくプラスチック製だ。今年、中国ではこうしたシンプルなEVの販売台数が約40万台に達する見込みである。これこそが破壊的イノベーションだ。

プリウスはかつてのハイブリッド船と同じ

――ハイブリッド車(HV)はEVに駆逐されるのか?

そうなるだろう。HVは、蒸気エンジンと帆という2つのメカニズムが推進力だった、かつてのハイブリッド船に例えられる。いずれも持続的イノベーションである。

蒸気エンジンが発明され、1819年、それまでの帆船に蒸気船が加わった。だが、複雑で故障しやすかったため、避難場所がない海では使えず、川の往来に使用していた。蒸気船の誕生から40年間は、海では帆船、川では蒸気船という2つの市場が併存していた。

だが、1890年前後に大西洋の航行に堪えうる蒸気船が誕生。その後20年間、蒸気エンジンが故障した場合に風を推進力とするハイブリッド船が活躍した。この20年間は新旧テクノロジーが共存する移行期間だったが、1910年ごろまでに蒸気船の生産性と信頼性が増し、帆が不要になった。

トヨタ自動車のHVである「プリウス」は、まさにこれと同じだ。持続的イノベーションであり、中国のEVが破壊的イノベーションの座を勝ち取るだろう。

日本の自動車メーカーが後れを取るのはテスラではなく、下位市場だ。普通車が買えない人たちを対象にした、狭い場所でも走れる低価格のEVとの勝負になる。トヨタのライバルは、中国の自動車メーカーが生産する下位市場向けのシンプルなEVだ。そうした製品がトヨタ、そしてプリウスを「破壊」するだろう。

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