テスラを「破壊的な革新者」と見るのは早計だ 「イノベーションのジレンマ」著者が語る本質

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――既存メーカーが生き残る道とは?

トヨタなど日本の自動車会社が生き残る唯一の道は、(EVの)新事業を別組織で起こすことだ。自社の傘下に置いてもいいが、営業チームやブランド、流通組織は別にすべきだ。「破壊」を起こすには、既存事業とは収益の仕組みを分ける必要がある。このルールに従えば、成功も夢ではない。

日本のメーカーが抱える最大の問題は成長が見込めないことだが、低価格でシンプルなEVにこそ成長の可能性が眠っている。成長は下位市場にあるのだ。それが破壊的イノベーションであり、「ジョブズ・トゥー・ビー・ダン(片付けるべき仕事・用事)」だ。

新刊『ジョブ理論─イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』でも説いたが、顧客の片付けるべき仕事を見つけ、製品を開発することがイノベーションを生む。トヨタがHVに成長を求めるなら、勝算はない。プリウスを買ったら、やはりHVである「カムリ」は買わないからだ。一方、下位市場で新たな顧客を掘り起こす市場開拓型イノベーションなら、成長が生まれるだろう。

活路はアジアやアフリカのEVにあり

――トヨタは米国でなくアジアを狙うべきか?

そうだ。中国やベトナム、フィリピン、バングラデシュ、インド、それからアフリカにフォーカスすべきだ。こうした国々には、手頃な価格のEVを必要とする市場が眠っている。米自動車メーカーと高価格帯のEVで競っても意味はない。

日本の自動車産業が生き残る道は、アジアやアフリカの下位市場を狙うことだ。そうすれば、半世紀前に(ガソリン車で)破壊的イノベーションを起こしたようにEV市場を開拓し、再び成功を収めるチャンスがある。

一方、米国市場で破壊的イノベーションを起こしたいなら、EVよりもティーンエージャー向けの製品を狙うべきだ。友人に会いに行ったり、通学したりする際に使う低価格帯の(ガソリン)車だ。ティーンエージャーが自分たちだけで遠くに行ってしまわないよう、スピードを抑えた5000ドルくらいの製品がいい。子どもに車を買い与える親にとって、「片付けるべき仕事」とは何か。それを考えることがイノベーションにつながる。

肥田 美佐子 ニューヨーク在住ジャーナリスト

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ひだ みさこ / Misako Hida

東京都出身。『ニューズウィーク日本版』編集などを経て、単身ニューヨークに移住。アメリカのメディア系企業などに勤務後、独立。アメリカの経済問題や大統領選を取材。ジョセフ・E・スティグリッツなどのノーベル賞受賞経済学者、「破壊的イノベーション」のクレイトン・M・クリステンセン、ベストセラー作家・ジャーナリストのマルコム・グラッドウェルやマイケル・ルイス、ビリオネア起業家のトーマス・M・シーベル、ジム・オニール元ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント会長(英国)など、欧米識者への取材多数。(連絡先:info@misakohida.com)

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