長時間労働で「管理職に罰金刑」ドイツの実際 ドイツ好況は「1日8時間労働」で実現した

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ある日本人サラリーマンは、「直属の上司との信頼関係が非常に重要なので、上司の意向に反して長期休暇を取るなんて無理。そんなことをしたら上司との信頼関係が失われる」と言っていた。

経営者が前科者になるリスク

ドイツの場合、組織的な長時間労働が発覚した場合、刑事事件に発展することもある。事業所監督局は、悪質なケースについて経営者を検察庁に告発する権限があるのだ。

たとえば、組織的な長時間労働で摘発された後も、同じ違反を何度も繰り返したり、社員の健康や安全に危険を及ぼすような長時間労働を強制したりした場合である。

刑事事件に発展し、裁判所から有罪判決を受けた場合、経営者は最長1年間の禁錮刑に処せられる可能性がある。長時間労働を強いるブラック企業の経営者は、罰金ばかりでなく「前科者」になるリスクを抱えているのだ。長時間残業は、企業イメージにも深い傷を負わせる。

ドイツは好景気のため、多くの企業が深刻な人材不足に悩んでいる。「インダストリー4.0」という工業生産のデジタル化計画が、ドイツの成長戦略として注目されているが、IT技術者の人材不足により、遠くインドや東欧などから人材を受け入れている。

今求められているのは、外国に留学したり勤務したりなどの経験があって、コンピュータの初歩的なプログラミングができて、数学と経営学を修めたような高学歴の人材。企業はこうした人材を勝ち取るために激しい競争を行っている。

ドイツの中規模企業連邦連合会のアンケート(2015年)によると、回答企業の52%が、「特定の技能を持った社員を探しているが見つからない」という。また、ドイツ経済研究所は、「2020年までに専門技能を持った就業者が130万人不足する」と予測している。

こうした人材不足の中、組織的な長時間労働で監督官庁に摘発され、ブラック企業としてメディアに報じられてしまうと大きな痛手となる。

日本でも人材不足に悩まされる企業が多く、ブラック企業の噂が立った飲食店チェーンで人が集まらなくなり、店舗展開や営業時間の縮小を余儀なくされるケースが取りざたされている。

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