Access Ranking
チームとは、達成すべき目標を実現するためにつくられた集団だ。とくにチーム力が欠かせないビジネスの現場では、個々のリーダーシップやプロフェッショナルとしての能力が求められる。
しかし、実際にチームを動かすとなると意外にうまくいかないことも少なくない。どうすればチーム力を最大限に引き出すことができるのか。身体性をキーワードに学習する組織を追究する明治大学教授の齋藤孝さんとリーダーシップと組織に詳しいグロービス経営大学院教授の佐藤剛さんにチーム力の必要性、マネジメント方法について語ってもらった。
緊急アンケート「働いて楽しそうな会社」実施中。詳しくはこちら
チームづくりの秘訣、会議をうまく進める方法とは?
齋藤 なぜ今チーム力なのか。それは変化が激しい今、日々の複雑な問題に臨機応変に対応していくためには、チームで対応することが最も有効だからです。変化が激しいということは、そこにアイデアが求められる。アイデアを生み出すには、クリエイティブなチームが欠かせません。チームでなければ対応できない複雑な時代を今迎えているのです。
佐藤 そもそも人類は100年ほど前に初めて会社という大規模組織に遭遇し、その中で分業システムが生まれましたが、同時に部門間の壁や縄張り意識も生まれた。それが組織のヒエラルキーの典型的な構造となり、ある意味での弊害にもなった。
それを打ち破るためにも、クリエイティブなチームが必要なのです。組織は常に新しいものを生み出していかないと存続できません。組織に横串を差し、大きなヒエラルキーに揺らぎを与える意味でも、チームはやはり重要だと考えています。
齋藤 では、クリエイティブなチームをどうつくるのか。まず人数はあまり多過ぎないほうがいいでしょう。とくに新しい意味を生み出す関係性をつくるには4人が最適。4人だと参加している責任感や当事者意識を失わず、連動感のあるチームがつくれるからです。
また、メンバー同士の最初の関係づくりも大切です。コミュニケーションとは、意味と感情のやり取りをすることです。でも、意味をやり取りする以前に、感情レベルである程度の信頼関係がないと思い切った意見は言いにくい。
私は初対面同士がディスカッションする際には、最初の2~3分、身体を使って、拍手やハイタッチをしたり、互いに名前を覚え、雑談をさせます。そうすると、その後のディスカッションがとてもやりやすくなるのです。
佐藤 私も身体的なことをベースにして、マネジメントを考えてきましたが、齋藤さんが今おっしゃったハイタッチするといった身体性こそ、非常に重要だということが最近の研究でほぼわかっています。オキシトシンという信頼に関する脳内物質が出ると言われています。
齋藤 身体が基盤ということは、社会が高度化されていく中で忘れ去られてきたんです。とくにパソコンの前に座る仕事をしていると身体性を考えなくなる。しかし、高速で変化していく現代だからこそ、より身体性の高い人、身体的にコミュニケーションが上手な人がじつは求められているんです。そこに今ギャップがあると思います。
私は会議をするときでも、最初に軽く20~30秒ジャンプをすることをお勧めしています。身体がほぐれた状態だと笑顔が出て、笑いやすくなって、ほかの人の意見も受け止めやすくなる。そして、誰かが発言したら、「あるある」「いいね」と軽く拍手をして盛り上げていく。それをやっていくうちに場が温まってくるのです。
佐藤 それはチームマネジメントの基本だと思いますね。
サッカーに見るチームづくりと当事者意識の大切さ
齋藤 佐藤さんの著書である『チーム思考』を読ませていただくと、サッカーの話が出てきますが、私もサッカーが一つのチームづくりのモデルだと考えています。サッカーはテクニカルで流動性が高く、監督の指示通りにはなかなかいかないスポーツです。もちろん全体の戦術はあるんですが、自主的に判断して連動していかなければならない。ビジネスのチームづくりにもサッカーのモデルがヒントになるでしょうね。
佐藤 私がいつも説明するのは、各自の役割分担はあるけれども、それが目的や状況に応じて、柔軟に入れ替わることがチームだということです。サッカーは守るときもあれば、攻めるときもある。それも瞬時に入れ替わりますよね。それがダイナミズムを生む。単なる役割分担に縛られていてはダメだと思うんです。
齋藤 例えば、ヨハン・クライフが見せたオランダ代表のサッカーは、ボールをもった人がリーダーだというトータルフットボールの考え方を採用しています。クライフはスーパースター選手ですが、クライフが中心というよりは、全員が連動してボールを持った人が次々とリーダーになっていく。
この考え方はクライフが監督となったFCバルセロナに引き継がれます。そこでフィロソフィーになるまでトータルフットボールを浸透させた。すると今度は強豪バルセロナのサッカーを世界中が真似するようになった。ボールをもった人間がリーダーになる。それは現代社会に対しての強力なメッセージだと思います。
佐藤 私はチームという言葉を使うときに、二つの側面があると思っています。一つはクリエイティブ、イノベーションを発揮する意味でのチームと、もう一つは、危機管理として、今までまったく自分の経験のないものに対して、どう対応するのか。そこにチームとしての団結力とか、チームマネジメントがすごく効いてくると思っています。
私は3.11の東日本大震災から一カ月の間にやり取りされたある会社のメールのログを分析しているんですが、そこに非常に特徴的なチームのつくり方が浮かび上がってきたのです。それは、最初は業務命令や指示だったものが、だんだん相手がやったことに対し拍手をするように承認メッセージがどんどん増えていったことです。
おそらく3.11直後は動揺しているので、とにかく「どうしよう、どうしよう」というメールしか来ないんですが、後半から急激に承認メッセージが出てきて、チームが活性化していく姿が見えてきたのです。
齋藤 一番大事なのは当事者意識だと思うんです。先日、ある大企業の経営者に「どんな人材が欲しいんですか」と聞いたら、「やはり当事者意識の高い人が欲しい」と言っていました。当事者意識をもてる資質があるかどうかは個人差があると思うんですが、僕の考えでは、人はチームで何かを生み出した経験があると徐々に当事者意識を持つことに慣れていくと思っています。
リーダーシップは「入れ替わり立ち替わり」で生まれる
佐藤 じつはチームの研究をしていて、個人としてどういった行動をとらなければいけないのかを考えたときに、やはり一人ひとりがリーダーシップを発揮できる状況をつくらなければいけないと考えています。
私は、“創発リーダーシップ”という言い方をしていますが、あちこちでリーダーが創発している状態で、「ここは僕の出番だ」「ここは彼の出番だな」とお互いが入れ替わることで当事者意識が出てくるんです。
齋藤 そうするには、まず自分で手を挙げることが基本だと思うのです。でも、会社は序列があって役割が決まりがちです。例えば、上司側が意識的に若い人にリーダー的な役割を振って、役割をどんどん変えていく訓練をすることはあるんでしょうか?
佐藤 あると思います。例えば、この課題については君が担当であり、オーナーだからちゃんとやってくれと。それでお互いにディスカッションしていくことはあります。
齋藤 そのときの会議は、その人がリーダーとなって仕切るわけですよね。そうすると、会議に参加した全員が、様々な局面でリーダー的な役割を果たすことができる。リーダーを固定的に一人決めるというよりは、課題によって潜在的なリーダーがいて、状況ごとに各人が浮上してリーダーになっていく。それはわかりやすいモデルですね。
佐藤 さきほどの3.11のケースで研究対象となった会社は、まさにそのモデルを使ってリーダーシップを発揮することで成功したと思うのですが、同じころ官邸では「俺のところにすべての情報を集めよ」というやり方で失敗した。まったく発想が違いますね。
齋藤 情報共有のスピードアップという点で言えば、例えば、学校でいじめの芽みたいなものがあったとして、その問題を担任の先生一人だけで抱えていると、気が付いたときには問題が大きくなって、対応も後手に回ってしまいます。
もし、この子がいじめられて、ちょっと危なさそうだということを学年ごと、学校全体、校長までが感じていれば、その後の対処は違うはずです。情報共有がうまくできないのは、コミュニケーションやチームが成り立っていないと考えてもいいでしょう。
佐藤 「必要な情報をよこせ」「お互いに共有しましょう」と言っても、何が必要な情報なのかは事前にはわからないものです。何が起こるかわかりませんから。そんなときこそ、インフォーマルで常にお互いに意見を交換している関係性を持ってないと、必要なときに必要な情報はまず上がってきません。
齋藤 会議以外でも、いろんな情報は何気なく交わす会話で得ることも多いと思うんです。正式な会議で言いにくいことでも、「実は今これに困っててね」と、ちょっとしたときに出てくる。その意味で、チームが大事な時代では雑談力、それも常に全員と雑談できる状態をつくっておくことが大切だと思います。
あなたが働いてみたいと思う「働いて楽しそうな会社」を教えて下さい。
ご回答いただいた方の中から抽選で謝礼(iTunesギフトコード)を差し上げます。詳しくはこちら