ナイキ創った「ダメ男」、フィル・ナイトの魅力 ほぼ日CFOが語る「圧倒的リアリティ」とは?

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それから、登場人物たちのキャラクターがすごく立っていますね。共同経営者になるビル・バウワーマンは、実はオリンピック陸上チームの監督をするくらいすごい人なのに、フィル・ナイトの大学時代の鬼コーチというイメージが強く印象に残り、すごさを感じない。ほかの創業メンバーたちも、かつて陸上選手として活躍したり、他社で活躍していた立派な人なのに、なぜかみんな変な人たちに見える(笑)。飲み過ぎ・太り過ぎの公認会計士とか、手紙魔の元陸上選手がいたりして。

最初は、ずいぶん大げさに書いてあるのかな、とも思いましたけど、最後までそのトーンで貫かれているから、「本当にこんな人たちなの?」ってびっくりしてしまう。

フィル・ナイトも個性的です。仲間がいる中での個性ですよね。この本の記述からは、歳も歳だし、かっこつけるつもりもないっていう、すごくざっくばらんな姿勢を感じます。本人が目の前でしゃべっているようなドライブ感がありますね。ぼろぼろだけど何か熱気があるオフィスの様子とか、取引相手がそのひどいオフィスを見に来て驚いて無言で去っていくときの冷たい「ひやっとした」感じが、伝わってきます。

まるで、映画やマンガを見ているような印象がありました。個性的な若者たちが集まって、困難を乗り越えて事業を大きくしていくさまは、少年漫画と同じような世界観かなあ、と思いました。

――ほぼ日のチーム経営と重なるところはあるでしょうか。

リーダーが細かい部分に入り込みすぎず、各々のチームメンバーの個性が生きるようなチームになっているところは、ほぼ日の組織運営の目指すところであり、共感します。

創業メンバーでの経営会議のシーンがありますよね。すごく大事なことを話しているのに、いつもバーを占拠して酒を飲んで大騒ぎして。でも、それに参加しないで宿で本を読んでいるメンバーもいる。メンバーはみんな個性的で魅力的だけど、ずっと一緒にいないとダメ、といったべたべたした感じがしない。私はあのシーンも好きなんです。

『インディ・ジョーンズ』のような冒険物語

――CFOとして共感できるところはありましたか。

フィル・ナイトはずっと資金繰りに追われていますよね。お父さんからおカネを借りて初めて靴を輸入するところから、社員の両親のなけなしの貯金も借りて運転資金にあて、日商岩井に資金援助を頼むまで。それでも足りなくて、上場するところまでも。ひたすら資金繰りに窮する話ですよね。

ナイトの経営方針がそうさせたという面もありますが、資金調達の手段が銀行借入しかないというのは、大変だったろうなと思います。今はベンチャーキャピタル(VC)などもあり、当時よりすごく恵まれた環境です。今だったら、ブルーリボンはもっと速く成長できたかもしれません。速く成長することがいいかどうかは別問題ですが。

それと、ナイトは公認会計士で、おカネがないと言いつつも、状況をちゃんと把握して、計算ができていた、というのも実は大きいと思います。理論的には、会社を動かすとはどういうことかを彼は知っていた。ほかの創業メンバーは、靴が好きだったり、陸上が好きだったりしても、経営はできなかったと思います。

ナイトは、靴のビジネスを始めてから数年は並行して、会計士になったり、大学で教えたりと、何年も別の仕事をちゃんとしていましたよね。夢としては靴のビジネスだけをしたいけれど、食えるかどうかわからないから、他の仕事をきちんともたないと、というまじめさも持っていた。そういうところも、好感が持てます。本では、そういうまじめな面はあまり強調されていませんが。

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