ナイキ創った「ダメ男」、フィル・ナイトの魅力 ほぼ日CFOが語る「圧倒的リアリティ」とは?

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――日本との関係も深いですよね?

ブルーリボン(ナイキの前身)がオニツカ(現アシックス)の代理店だった、という表面的な知識は持っていましたが、両社の間に、こんなに深い関係、こんなに深いやり取りがあったということは、知りませんでした。最初は良好な関係と思われたものが、猜疑心(さいぎしん)、敵愾心(てきがいしん)に変わって訴訟に至るまでのストーリーとか。

現代の私たちは、ナイキという企業が大成功を収めたことを知っているので、これは成功に向かっていく話なんだ、という根底の安心感があったのですが、それでも読んでいる途中で、これは本当に成功に向かっているのか、どうしてこれで倒産しないのか、というハラハラ、ドキドキから逃れられなくなります。

私のなかでは、映画の『インディ・ジョーンズ』とかぶりました。基本は冒険物語です。ピンチの連続ですが、ときどきユーモアが入ってきて、読者を飽きさせない。本のクライマックスのシーンでは、映画でも流れるあの有名なファンファーレが頭の中で鳴り響いていました。

ダメ男、フィル・ナイト

――ストーリーがリアルで、迫真に迫るということですか。

はい。リアルに大丈夫かな?と思わされてしまう。オニツカ社にサンプルをくださいと言って、おカネも払ったのに、1年もそれが届かないとか。そのままだったら、そもそもナイキはいま存在していないことになりますよね。それにナイキのロゴマークであるスウッシュができたときの話も偶然の重なりのようなもの。ちょっと信じられない。

創業者が書く自伝は、現在の成功を前提として、そこにつながっていくようにきれいにエピソードを並べがちになりますね。無意識にそうなるということもあるでしょうし、関係者への配慮から、そうならざるをえないという面もある。結果、つまらなくなることが多い。

でもこの本は、そこがちゃんと書いてある。神戸にあるオニツカ社を訪れたときに、本当はないブルーリボンの東海岸の支店をあるとハッタリを言ってみたり、その支店をつくるために社員を無理やり異動させるんだけど、彼にそれを言い出せなくて数日間も黙っていたりとか、そんな細かいリアリティがすごい。

資金繰りの問題とか、仲間との問題とか、創業した人は何かしら困難を経験すると思うのですが、そうした困難に直面したときのナイトさんのダメな感じがすごくよく描かれていて、きれいすぎないんですよね。人間が一所懸命になっているときの無鉄砲な感じとか、困ったときにちょっと現実から逃げようとしちゃう感じが伝わってくる。

ビジネスって、1人では創れない。自伝は「俺はすごかった」という話になりがちですが、実際は、多くの人と密な関係を築くなかで、助けてもらったり、けんかする相手もいれば、顔も見たくないと思うくらいに憎む人も出てくるかもしれない。そんなリアルな人間関係が描かれていて、俺様だけの自慢話では決してない。予定調和の部分が少ないからこその面白さがあると思います。

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