統計はだまし、盗み、中傷し、時に人も殺す
──統計は「だます」ばかりでなく、「盗む」し、「中傷や虐待」もするし、時には間接的に人も「殺す」のですか。
統計は善良に使えば、有用なものだし、社会を分析・変革するのに有効だ。だが、単なる不注意ではなく、わざと正直に使わない人や団体が存在する。よくない使い方をされると被害は大きい。「左利きは早死にする」「未婚者は10年短命」「二酸化炭素は温暖化とは関係ない」、さらには「たばこをいくら吸ってもがんにならない」といった、統計をかたった妄説に出合ったことはないだろうか。
──いわゆる都市伝説や俗説ですね。
統計を示さなくてもいいのにあえて引用することで、見せかけの説得力をカサ上げしようとする。商品広告によくある「絵と本文は関係ありません」「画像はイメージです」といったものと同じたぐいだ。関係ないのならなぜ載せるのか。載せるのには何らかの意図があるはずだ。統計引用ではとかく悪質で、載せても出所のただし書きをしない。あたかも関係があるかのような文章がつく。科学的だと装いたいからだ。
──経済、社会の記事でも気になると。
たとえば日本はGDP(国内総生産)の2.5倍もの累積債務を持ち、増加に歯止めがかからない。それに対して「それでもいいんだ」という言説がある。この見方はどう見ても経済学に基づかない。科学としての経済学はインセンティブを扱う。累積債務はインセンティブとして子々孫々に大いなるツケを回すことになる。
過重な債務は国家レベルの日本人児童への虐待との見方もできる。将来世代から搾取している形だからだ。搾取は発展途上国の規模どころの話ではない。一大汚点なのだが、世界銀行などの毎年のアニュアルリポートで財政不始末と小言を言われ続けても、債務の膨張から顔を背けたままだ。
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