インド中銀新総裁は救世主になれるのか 元IMFチーフエコノミストがインドの難局に挑む

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11年度以降、消費や投資が伸び悩んでおり、12年度の成長率は5%と過去10年で最低となった。インド中央銀行は今年に入り、1月、3月、5月と、3度の利下げを実施し、景気浮揚を図っていた。にもかかわらず、急激な通貨安の進行で輸入インフレの懸念が強まり、物価安定を重視する中央銀行としては、利上げの必要性に迫られている。だが、景気減速の中での利上げは副作用も大きいだけに即座には踏み切れない。

結局、7月は政策金利を据え置きつつ、民間銀行に貸し出す金利を引き上げるなど、引き締め的な政策を打ち出すにとどまった。一方、国債の金利上昇が続く中、今度は国債買い入れを8月に発表し、緩和的な方針を示すなど、金融政策は右往左往している。

「景気減速といっても、市場の期待が高すぎた裏返しという側面もある。投資家は売るための材料集めに奔走している」(市場関係者)という見方もある。だが、米国の金融緩和縮小の影響を、市場がどこまで織り込んだかは不明で、新興国市場で売りが売りを呼ぶ状況が早々に落ち着く保証はない。

バーナンキ発言はきっかけにすぎない

バーナンキ発言はきっかけにすぎず、インドが抱える双子の赤字(経常赤字と財政赤字)という構造的な問題が、ルピーが売られる本質的な要因とも考えられる。第一生命経済研究所の西濱徹主任エコノミストは「現状を金融政策だけで乗り切るには限界がある。政府が構造改革をどれだけ進められるかが重要」と指摘する。目下、インド政府は小売業や通信分野などでの外資規制緩和やインフラプロジェクト推進などへの意欲をあらためて示している。

ただし、構造改革には相応の時間を要する。市場の急激な変化の影響を和らげるには、金融政策での対応が求められる。難局打開に向けて奥の手はあるのか。ラジャン新総裁は就任早々、手腕が試される。

週刊東洋経済2013年9月7日号

井下 健悟 東洋経済 記者

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いのした けんご / Kengo Inoshita

食品、自動車、通信、電力、金融業界の業界担当、東洋経済オンライン編集部、週刊東洋経済編集部などを経て、2023年4月より東洋経済オンライン編集長。

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