花王、8年かかった「敏感肌化粧品」の舞台裏 開発は早々に頓挫、試行錯誤の連続だった

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プロジェクトは頓挫した。しかし、現場の研究スタッフたちはあきらめていなかった。「敏感肌とシワなどに関係がある、と強く思っている消費者は多かった。乾燥性敏感肌ならではのエイジングケアは必ずできると信じ続けた」と花王スキンケア研究所の高橋昭彦氏は語る。

花王スキンケア研究所の高橋氏。エイジングケアシリーズのプロジェクトが中断しても「敏感肌とシワなどの関係性が必ずある」と考え、研究を続けていた(記者撮影)

研究スタッフは紫外線など外的要因による影響との区別を行ったうえで、肌の状態を詳細に調べていった。すると、肌のバリア機能が低下することで内部に微弱な炎症が生じ、小ジワができやすくなることが判明した。

さらに、加齢に伴い「エラスターゼ」と呼ばれる酵素が増え、シワの発生につながることなどを突きとめた。ついに、乾燥性敏感肌とシワの関連性を見出したのだ。

製品化に当たっても試行錯誤を重ねた。敏感肌向けの商品ゆえに、とろみをつけたり、クリームもさらっとさせたりするなど、使い心地にもこだわった。敏感肌の人を含む100人以上に試してもらう大規模な実験を2度にわたって実施。エイジングケア効果の有無も調べ、皮膚科医から評価を得ることができた。こうした紆余曲折を経て、9月の発売にこぎ着けた。

エイジングケアをどうアピールしていくか?

満を持して送り出したエイジングケアシリーズ。ただ、消費者に浸透させるのは容易ではなさそうだ。ターゲット層は40代以上のほぼすべての年代と幅広く、広告戦略も一筋縄ではいかない。そもそも中高年層にはキュレルを若者向けブランドだと思って購入を躊躇している人も多い。

花王としては、利用者の口コミによる拡大を重視している。そこで現在、Webアンケートに答えるとサンプルが8万0500人に当たるキャンペーンを実施中。サンプルは、化粧水・ジェルクリーム、化粧水・クリーム、ギフトセットの3種類から選ぶことが可能だ。ギフトセットにはラッピング袋とカードが同封され、娘が母親などにプレゼントとして渡すことも想定している。「何よりも実際の商品を試してほしい」と竹島マネージャーは語る。

ただし、敏感肌向けエイジングケアシリーズは競合他社も先行して発売している。しかも敏感肌の人は、専用化粧品ではなく、通常の化粧品を購入するケースが多い。「専用化粧品は肌に優しいとわかっていても、自分に本当に効果があるのか疑問に思っている」(竹島マネージャー)からだ。

つまり、今後は敏感肌に悩む人に専用化粧品のメリットを訴求し続けることが課題になる。8年をかけて開発した花王の新製品は成果を出せるのか。敏感肌との戦いは、商品を発売しただけでは終わらない。

若泉 もえな 東洋経済 記者

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わかいずみ もえな / Moena Wakaizumi

東京都出身。2017年に東洋経済新報社に入社。化粧品や日用品、小売り担当などを経て、現在は東洋経済オンライン編集部。大学在学中に台湾に留学、中華エンタメを見るのが趣味。kpopも好き。

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