米国の「北朝鮮攻撃」はどの程度現実的なのか 米ブルッキングス研ポラック氏に聞く<上>

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ここで問題なのは、こうした発言が本気なのか、ということだ。トランプ大統領が軍にあらゆる軍事的選択肢を提示するように求めた、ということはありうる。そして軍はある種の簡略化された方法で、それを行ったかもしれない。

しかし、私はいつも講演があると、「深い闇に包まれながら明らかな話」として聴衆に伝えるのだが、米政府関係者が何を言っているかに関係なく、米軍の軍事行動のすべての選択肢が示されるわけがないのだ。最も恐ろしい結果を招く可能性が非常に高いことを考えれば、米国が朝鮮半島での予防戦争を現実的に、合理的に検討することなどありえない。

この姿勢は、百戦錬磨の退役海兵隊大将、ジェームズ・マティス国防長官によって最も顕著にうかがえる。ジョン・F・ケリー退役海兵隊大将がいまやホワイトハウスの首席補佐官であるという事実もこれを裏付けている。朝鮮半島での予防戦争は、北朝鮮だけでなく、韓国を含めた極東アジアに想像を絶する規模の壊滅的影響を与えることを2人はわかっているのだ。

一部の想像力に富んだ人々の妄想には、北朝鮮に対する2種類の予防戦争が登場する。1つは通常兵器で地上爆撃するものであり、もう1つは核兵器で爆撃するものだ。これはさすがにトランプ大統領でさえ、容易に「やる」と決められないことだ。

北朝鮮の寝首をかくのは無理

――予防的軍事行動について2つの話があります。1つは、金正恩氏は分別がないので、抑止不能だという話。もう1つは、北朝鮮政府は米国における政策論争を認識していて、どの程度までなら米国が軍事行動をとらないとわかっているという話。つまり、北朝鮮は米国が軍事行動をとるとは思っておらず、対応も考えていないため、米国はそのすきを突くことができるだろうし、北朝鮮はそれに報復をすることができない、と。

米国が北朝鮮のすきを突ける、というのは大間違いな思い込みだ。北朝鮮は世界で最も重武装した国のひとつだ。話に出ている予防戦争の目的は、見つけられるかぎりの場所で、北朝鮮の核兵器およびミサイル開発機能をマヒさせることにある。ただ、北朝鮮の貯蔵兵器の非常に多くが、山間部や地下トンネルの中にあるので、果てしない空爆作戦が必要となるだろう。米国がいつまで続くか見当がつかない空爆作戦を続けているさなか、どうやって北朝鮮のすきを突けるというのだろうか。

朝鮮戦争の間、米国は北朝鮮を圧倒した。しかしその後の60年という長い年月の間に、北朝鮮政府は戦闘の準備をしてきている。現在の北朝鮮のシステムはすべて、米国やその他の多くの国は敵であるという前提のもとに成り立っている。北朝鮮の寝込みを襲うということは、信憑性のある主張だとは、私には思えない。

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