機関車より貴重?SL列車の「客車」が足りない 旧国鉄車両は老朽化、新車投入は高コスト

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1987年に国鉄が終焉を迎えて以降、寝台車ではない、一般的な座席を備えた客車をJR各社が新製した例は、2017年に至るまでまったくなかった。そもそも機関車のみが動力を持ち、旅客が乗る客車を牽引するという列車自体、1960年代以降、車両の床下に分散して動力を持つ電車、気動車への置き換えが進んでいた。国鉄において新製された座席客車は1970年代の12系、14系、および通勤通学列車用の50系で途絶えている。

1979年に運転を開始した山口線の「SLやまぐち号」以来、各地で復活したSL列車でも、客車を自前で新製した例はこれまでなく、国鉄時代に製造された12系、14系、50系およびその改造車を用いる例がほとんど(JR東日本のキハ141系も実は50系客車の改造)。JRの発足からでも30年を経ている現在では、蒸気機関車以上に客車の老朽化が問題となってきているのだ。

その中で、戦前~戦後すぐに製造された旧式の「一般型客車」を、今も運用しつづけている大井川鐵道とJR東日本は特筆される存在と言えよう。

貴重な客車「延命」へ中古車購入

大井川鐵道がJR北海道から購入した14系客車(写真提供:大井川鐵道)

大井川鐵道では、2016年にJR北海道から14系客車を購入。SL列車に充当すると発表した。車齢60年を超して老朽化が著しい一般型客車を少しでも延命させるため、一部の列車をこれに置き換え、走行距離を抑えて負担を分散させることを目的としている。

14系は冷房装置やリクライニングシートを装備した客車で、本来は特急列車にも充当可能な設備を持っている。窓は固定式なので、SL列車には似合わないという声も一部にはあるが、あくまで貴重な一般型客車を守るための措置である。

同社は「きかんしゃトーマス」に登場する蒸気機関車「トーマス」「ジェームス」を走らせているが、客車は色を塗り替えただけの一般型客車。子供連れには、むしろ14系が適しているかもしれない。

ただ、14系とてもはや老雄の域に達しているのも先述のとおり。同時代の車両であっても、冷房付き、4人掛けボックスシートで窓も開く12系のほうが、どちらかというとレトロな雰囲気を味わうには向いている。

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