中国が超速で「IT先進国」に変貌している理由 無人店舗、スマホ決済などすべてが超速

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7月12日、グローバルネットショップカンファレンスで講演したジャック・マー氏(写真:アリババグループ)

マー氏は言う。現在、PCからモバイルインターネットへという大波が押し寄せているが、技術革新は加速しており次の大波も迫ってきている、と。ECを基盤に発展してきたアリババだが、今後はもはやECは消滅しすべての小売りがインターネットと結合する「新リテール」の時代が到来すると予言している。

スマホアプリでしか決済できない

「新リテール」とは何か。そのシンボルと目されているのがアリババが出資したベンチャー企業、盒馬(フーマー)が展開する生鮮食料品店「盒馬鮮生」だ。

現在、上海市を中心に中国で12店舗を展開している。一見すると普通のスーパーだが、店舗型倉庫としての役割を果たしており、スマホアプリで注文すると5キロメートル圏内には30分以内で配送する。支払いは基本的にスマホアプリでしかできない。匿名性の高い現金ではなく、詳細な購入者情報が得られるモバイルペイメントに特化することで、より細やかなデータを入手することが可能となる。

アリババグループは2015年に家電量販店チェーン「蘇寧雲商」に出資。今年初めには百貨店グループ・銀泰商業を買収したほか、スーパーやコンビニを展開する百聯集団と戦略的提携を交わした。今後はこれらオフライン小売企業の「新リテール」対応を急ぎ、オンラインとオフラインの融合を図る方針だ。

またマー氏によると、「新リテール」は第一歩にすぎず、新製造業、新金融、新技術、新エネルギーを加えた「5つの新」のすべての分野に取り組みを広げていくという。アリババグループ各企業の重役が参加する「5つの新執行委員会」の立ち上げも発表されている。

ビッグデータやAI(人工知能)、あるいはインダストリー4.0など、技術革新による新時代の到来を示す言葉は日本メディアでもたびたび取り上げられている。しかしながらこうした技術が今日明日にも日本を変えるという実感はない。中国でも新技術がどのような世界を作るのか具体的な姿が見えているわけではないが、まもなく何かが起きるという予感だけは強烈に漂っている。

タオバオ・メイカーフェスティバルでの取材中、会場外にいたとき、一群の老人たちに声をかけられた。普通話(標準中国語)も怪しげなローカル色むき出しの人々だったが、「あの無人店舗はどこにあるのかね?」と場所を聞かれたのだった。「未来へ向かう熱はこうしたお年寄りにまで届いているのか」と中国の空気感を強く感じる一場面となった。

高口 康太 ジャーナリスト

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たかぐち・こうた / Kota Takaguchi

ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。中国の政治、社会、文化など幅広い分野で取材を続けている。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)、『中国「コロナ封じ」の虚実』(中公新書ラクレ)。

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