「赤ちゃんカンガルー」を救う保護活動の悲喜 オーストラリアで多発する交通事故

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交通事故にあった母親の袋には、カンガルーの子どもが生きたままで入っているケースも少なくない(写真:Serena Solomon/The New York Times)

デブ・ウィリアムズ(50)は最近もまた、スチュアート・ハイウェーの真ん中に横たわるカンガルーの死骸を見つけた。オーストラリアの中心部を南北におよそ3000km走る幹線道路だ。

そして彼女はいつもどおりのことをした。時速110kmで走っていた車の速度を落として路肩に停止し、カンガルーの死骸を道路の脇に移動させた。看護師のウィリアムズは、カンガルーをひいてしまった際に運転手がどれだけ衝撃を受けるか、その目で見て知っている。

漂う臭いとその場所から、死骸はそこに数日前から放置されていただろうと彼女は思った。生き物がまったくいない場所、少なくとも彼女はそう思った。

「そのカンガルーを見ると、何かが動いているのが見えた。『赤ちゃんカンガルーがいるわけない』と思った」とウィリアムズはその時のことを振り返った。死骸を路肩に移動させてから、カンガルーのおなかの袋をのぞき込むと、母親の血に染まりながらも、ほぼ無傷の赤ちゃんカンガルーがいた。

動物が巻き込まれた交通事故のうちカンガルーは82%

ウィリアムズは過去5カ月間、スチュアート・ハイウェー付近で約20頭の生きている赤ちゃんカンガルーを発見した。2016年の統計で、南オーストラリア、クイーンズランド、西オーストラリア、ビクトリアの4州で5000万頭のカンガルーが生息すると推定されている。保険会社AAMIによると、同年に発生した動物が巻き込まれた交通事故のうちカンガルーは82%を占める。

カンガルーに詳しい獣医師のイアン・ガンによると、雌のカンガルーは一度に2頭の赤ちゃんカンガルーを袋に入れることができる。赤ちゃんカンガルーは生後約6カ月で袋から外に出る。

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