「非人道」だったアパレル業界に起きた変化 高級ブランドが「人工ファー」に注目する理由

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洋服だけでなく、食やもてなし方などを含めたライフスタイル全体にエシカルを提案するというコンセプトに衝撃を受けたそうです。その影響を受け、2007年には『マリ・クレール日本版』で環境問題を巻頭で特集。ファッション誌で社会的なトピックを大々的に扱うという進取的な試みを行い、以後も継続してエシカルなライフスタイルを提案していらっしゃいます。

ファッション業界「製造と消費」の分厚いカーテン

それでは、なぜ今ファッション業界でエシカルという軸が注目されるようになってきたのでしょうか。

ファッション業界では長らく、製造と消費の間に分厚いカーテンが引かれていました。しかし、近年ではそのカーテンにほころびが出はじめ、向こう側に隠されていた環境汚染や児童労働などの問題が次々と白日のもとにさらされています。

問題提起のきっかけとなった1つが、2013年にバングラデシュの縫製工場で起こった崩落事故。 5階から8階までを違法に建築した工場に3000人以上の労働者を無理やり詰め込んだ結果、5階から上が崩落して1138人の方たちが犠牲になりました。この縫製工場においては、労働者の時給がわずか14セント(約14円)だったことも明らかになりました。

この危険で過酷な労働環境の背景には、ファストファッションブランドが原価を抑えるために、工場の設備費や人件費などを極限まで削減していたことが大きくかかわっています。

さらに、洋服の素材として一般的なコットンにも、製造の裏側には目を背けたくなるような現実があることが明るみに出てきました。綿花の栽培地は世界の耕作面積の約2%ほどですが(一般財団法人日本綿業振興会調べ)、綿花の栽培に使われている農薬は、世界の全農薬の実に約25%。なお、使われる除草剤の中には、ベトナム戦争のときにアメリカ軍が散布し、障害のある子どもが生まれてくる原因になった枯葉剤と同じ成分が含まれています。

こうした有害な化学物質が複数含まれる農薬による中毒が原因で、綿花の製造者たちの間では深刻な健康被害が引き起こされています。先天性異常や運動機能障害、がん、不妊、ホルモンの分泌異常などの疾患により、亡くなる方たちは年間で約2万~4万人と推定されています(PESTICIDE ACTION NETWORK UK)。さらに、綿花の主要栽培地であるインドでは、健康被害で苦しんだ果てに、30分に1人が自殺しています。

化学肥料の使用を控えたオーガニックコットンに切り替えれば、これらの問題は解決につながっていきます。その反面、コストが増えることで販売価格も高くなるため、売上低下を懸念する各ブランドはなかなかオーガニックコットンの使用に舵を切ることができません。事実、オーガニックコットンの栽培面積は、綿花の全生産量における0.8%にすぎないという状況です(日本オーガニック・コットン協会)。

そんな中、率先してオーガニックコットンを使用しているのが、アウトドアブランドのパタゴニアです。

次ページパタゴニアが価格を上げてまでオーガニックにこだわる理由
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