貧困シングル母「善意の若者」に浴びせた洗礼 グローバル都市NYの「貧困のリアル」
華やかなグローバル都市ニューヨーク。ウォール街の金融エリートや新進気鋭のアーティストが活躍する一方、売春婦、移民、ヤクの売人たちもしのぎを削り、セレブと貧困層とが社会階層を超えて共存している街だ。その実態を描いた『社会学者がニューヨークの地下経済に潜入してみた』が刊行された。
本書の著者スディール・ヴェンカテッシュはもともと貧困層の研究をしていた。しかし、ニューヨークの本質を理解するには、上流階級と貧困層の両方を分析対象にする必要があると気づく。
そんなとき、一族の慈善団体の後継者で、貧困支援に取り組もうとしている裕福な若者3人(カーター、マイケル、ベッツィ)が、ヴェンカテッシュのもとに教えを請いにやってきた。「渡りに船」と喜ぶヴェンカテッシュだが……。
ここでは、貧しいシングルマザーがどのような生活をしているのかをわからせるため、ヴェンカテッシュが若者3人を連れてハーレムを訪ねた箇所を本文から抜粋し、一部編集のうえ掲載する。
貧困シングルマザーが怒る生活保護のおきて
ぼくらはタクシーで145丁目まで行き、古くて狭苦しいアパートの前で降りた。ぼくらが訪ねるのはシルヴィア・マッコウムズ、女手ひとつで3人の子どもを育てている。彼女のアパートに入ると、中は質素でこぎれいだった。
「シルヴィア」。ぼくはそう話しかけた。「ぼくたち、お役所仕事のことを本で勉強してるんだ。ほら、福祉事務所とか保健所とか福祉士の人たちとか。あいつら、君がぜったいに儲からないように、福祉でお金持ちにぜったいならないようにしてるよね。この子たち、『家に男』ルールがわからないんだ」。
「あたしだってわかんないよ」とシルヴィア。「ありゃクソだな」。
そう言ったところで彼女は止まらなくなった。苦労して手に入れた手練手管を誰も褒めてくれない、そう感じているたくさんの人と同じように、やっと話を聞いてくれる人が現れたのを、彼女は喜んでいた。
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