2018年以降、「世界同時不況」が始まる理由 バブル崩壊の「引き金」はどこが弾くのか

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今の世界の経済状況は、経済に過熱感はまったくないものの、後に「バブル経済」だったといわれるかもしれません。なぜなら、リーマンショック後の世界経済は借金バブルによって支えられてきたからです。今の長期にわたる世界経済の緩やかな景気拡大期は、借金バブルの賜物であったといえるのです。過去の数々のバブルをもたらした主因は、例外なしに、異常な水準にまで膨らんだ債務の増加にあります。バブルがその限界をあらわにするのは、ある時点で借り手の収益の見通しが悪化し、貸し手が融資の拡大に歯止めをかけるようになるからです。その結果として、債務の増加が止まると同時に融資が減少してくると、経済は悪化の方向に動き出し、債務の不良債権化が表面化してくるというわけです。

世界各国で金融緩和の限界が指摘されるなかで、政治の世界では財政出動を声高に唱える人たちが増えてきているのも気にかかります。それぞれの国々の経済にとって、債務の増加が将来のいちばんの重荷となっているにもかかわらず、景気を浮揚するために財政出動を増やそうなどという発想は、目先のことしか考えていないというほかありません。国家も企業も債務は地道に返済していくしかなく、「国家の財政再建と景気拡大の両立」や「企業の債務返済と景気拡大の両立」など、過去数百年の資本主義経済では起こりえませんでした。

日本では中国のように企業債務を心配する必要はありませんが、国家がGDP比で200%を優に超える債務を抱えてしまっています。日本で若い世代を中心に消費が増えないのは、国民が国の社会保障制度を信用していないからです。いずれ行き詰まるだろうと考えて、老後のために貯蓄を増やす傾向をいっそう強めているというわけです。そういった意味では、財政再建を実行しなければ、将来の景気回復はありえませんし、財政再建を先延ばしにして目先の景気にばかり配慮していれば、より悲惨な経済状況が避けられないようになるでしょう。そのことを、欧州債務危機の教訓が見事に示しているように思われます。 

歴史を振り返ってみると、通貨安だけで経済を中長期的に回復させた国はありません。たとえ長い時間がかかったとしても、構造改革と成長戦略のみが有効な政策になりうるのです。また、増税だけで財政再建を達成した国はありません。増税をする前に歳出削減を断行する必要があり、歳出削減をしなければ財政膨張は止まらず、増税は焼け石に水になってしまうからです。このような考えを日本のケースに当てはめると、政治が優先してやるべきことは、社会保障改革を断行することで国民に将来の安心感を与えると同時に、その痛みを和らげる成長戦略によって経済成長を下支えしていくということではないでしょうか。

2018年までには米国経済が大減速、悪影響が世界に及ぶ

米国発の経済危機によって世界経済がマイナス成長に転落したとき、世界経済を救ったのは、中国の4兆元の公共投資をはじめ、その他の新興国の旺盛な投資や消費でした。つまりは、米国の借金バブル崩壊の後始末に、新興国の民間部門が新たに借金をして穴埋めをしていたというわけです。ところがいまや、中国やその他の新興国が借金経済を続けるのが難しくなってきています。世界経済の成長を持続させるためには、新たな国々が巨額の借金をして、投資や消費を喚起する必要があるのです。

少なくともドナルド・トランプ氏が米国大統領選挙で勝利した2016年の11月までは、世界中の国々を見渡してみても、そのような国々は見当たりませんでした。たとえ中国のように巨額の借金をしたとしても、その国は今の中国の二の舞いになるだけだったからです。

しかしながら、私と同じ考えを持つ識者のなかにも、トランプ政権が米国の財政赤字を増やしてでも世界経済を支えてくれるかもしれないと期待している人がいます。米国が巨額の財政出動をしても長期金利が低く抑えることができるのであれば、私もそうした期待を持つことが可能だと思いますが、現実には難しく、やがて長期金利の上昇が財政出動の効果を相殺してしまうでしょう。その結果、米国の債務増大が近い将来に大きな重荷となって、米国経済、ひいては世界経済に反動減をもたらすことになってしまうでしょう。

それ以前に、トランプ政権はロシア疑惑によって弱体化が始まっていて、大型減税と巨額のインフラ投資は公約の半分の規模も達成できない可能性が高まっています。米国の家計の債務残高が自動車ローンやクレジットカードローンなどの増加によって過去最高の水準を更新しているなかで、延滞率がじわじわと上昇し始めていることを考えると、いつ消費が減少に転じて景気が失速してもおかしくはないでしょう。

ですから私は、2020年くらいまでの世界経済を見通したときに、楽観的な見通しや明るい展望を決して持つことができません。2018年までには米国経済が大減速(ゼロ%台の成長)ないし後退(2四半期連続のマイナス成長)に陥る局面を迎え、その悪影響が中国や日本、欧州にも及ぶのではないかと懸念しているのです。2017年は中国が秋の党大会に向けて、公共投資の増額によって景気の浮揚を図ろうとしているので、資源の需要が増加し新興国経済を下支えできるかもしれません。しかし、やはり2018年以降は借金バブルの反動で厳しい局面が訪れるのではないかと考えている次第です。

中原 圭介 経営コンサルタント、経済アナリスト

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なかはら けいすけ / Keisuke Nakahara

経営・金融のコンサルティング会社「アセットベストパートナーズ株式会社」の経営アドバイザー・経済アナリストとして活動。「総合科学研究機構」の特任研究員も兼ねる。企業・金融機関への助言・提案を行う傍ら、執筆・セミナーなどで経営教育・経済教育の普及に努めている。経済や経営だけでなく、歴史や哲学、自然科学など、幅広い視点から経済や消費の動向を分析しており、その予測の正確さには定評がある。「もっとも予測が当たる経済アナリスト」として評価が高く、ファンも多い。
主な著書に『AI×人口減少』『これから日本で起こること』(ともに東洋経済新報社)、『日本の国難』『お金の神様』(ともに講談社)、『ビジネスで使える経済予測入門』『シェール革命後の世界勢力図』(ともにダイヤモンド社)などがある。東洋経済オンラインで『中原圭介の未来予想図』、マネー現代で『経済ニュースの正しい読み方』、ヤフーで『経済の視点から日本の将来を考える』を好評連載中。公式サイトはこちら

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